スタッフ
製作: カルロ・ポンティ
監督:『誘惑』フェデリコ・フェリーニ
『前金』ルキノ・ヴィスコンティ
『くじ引き』ヴィトリオ・デ・シーカ、
『レンツォとルチアーナ』マリオ・モニチェッリ
キャスト
『誘惑』
アニタ / アニタ・エクバーグ
アントーニオ / ペッピーノ・デ・フィリッポ
『前金』 プーペ / ロミー・シュナイダー
伯爵 / トーマス・ミリアン
『くじ引き』 ゾーエ / ソフィア・ローレン
ガスパリ / アルフィーオ・ヴィータ
『レンツォとルチアーナ』
ルチアーナ / マリーサ・ソリナス
レンツォ / ジェルマーノ・ジリオーリ
日本公開: 1962年
製作国: イタリア チネリッツ作品
配給: MGM
あらすじとコメント
ヴィスコンティが続いた。今回も同じだが、少し目先を変える。当時のイタリア映画界の有名監督三人によるオムニバス映画にしてみた。
『第一話・誘惑』イタリア、ローマ。禁欲主義者のアントーニオ博士(ペッピーノ・デ・フィリッポ)は、昨今は風俗が乱れ、街のいたる所に人間の劣情を催させる扇情的な事象が氾濫していると嘆き、怒っていた。
そんなある日、博士の住むアパート前の空き地に18メートルもある巨大看板が出現した。それは『牛乳を飲もう』という広告なのだが、胸元を露わにしたアニタ(アニタ・エクバーグ)が、ソファに寝そべり意味深な笑みを浮かべているモノだったから、さあ、大変。
博士は教会幹部や役所に掛け合って看板を取り外させようとするが・・・
人間の性を描いた巨匠たちの個性溢れる作品。
そもそも、モチーフは14世紀に活躍した作家ジョヴァンニ・ボッカチオが現代に生きていたら、彼の代表作である「デカメロン」に、どんな話を書き足すだろうかという視点で企画された。
その「デカメロン」という作品は、世界初の短編小説集と呼ばれ、十の小話が綴られており、喜劇性、悲劇性、風刺性などが入交じるのだが、一番顕著なのは『好色性』だったことから、世間から排撃された作品。
本作は、そういった見地から各話1時間にも満たない『短編』を有名監督たちが競作した作品。
上記したのは、第一話の『誘惑』でフェリーニ作品。禁欲主義者の実態を描くのだが、妄想が膨らみ過ぎて、巨大看板の女性の顔が変化し始め、挙句には、看板から18メートルの巨大女性が飛びだして来て、博士を誘惑するという話。
ふくよかというか、完全に巨漢と呼ばれる類の女性を頻繁に登場させるフェリーニが、遂に本当に巨大な女性に街を歩かせるという、どこかSFじみた、怪獣映画のような話。
第二話『前金』は、ヴィスコンティ監督作で、ハンサムで暇な伯爵が妻の金で高級娼婦たちと遊んだことがばれて大騒ぎになり、スイス人の妻であるロミー・シュナイダーのご機嫌を取ろうとする話。
ヴィスコンティらしく、名誉はあるが暇で放蕩三昧の伯爵という、特権階級の男の不貞の後始末をメインに描きながら、やがて、政略結婚した世間知らずの妻の言動が更なる女の悲劇へと変貌していく内容。
第三話『くじ引き』はデ・シーカ監督作で、小さなメリー・ゴー・ラウンドや射的など、移動見世物の一団に属するソフィア・ローレンが、闇くじの一等商品として、当選者と一晩付き合うという話。
ローレンのはすっぱな色っぽさが強調され、程度の低い男たちの欲望の餌食として描かれる。
劇場公開されたのは、この三話だが、発売されているビデオやDVDには公開時に上映時間の関係からカットされたマリオ・モニチェッリ監督による『レンツォとルチアーナ』という、新婚夫婦が親の反対を押し切って結婚した挙句の生活を描いた作品も収録されている。
どの寓話も面白く、それぞれの監督の個性がある。
別な意味で興味深いのは、フェリーニ監督と名コンビの音楽家ニーノ・ロータが、ヴィスコンティ作品に音楽を付けるといった違和感や、短編と称して1時間前後に収めていく各監督の手腕の違いなど、飽きずに見ていける。
また、出演者たちも当時監督と名コンビと謳われた俳優たちによるツボを押さえた演技が繰広げられ、思わずニヤリとさせられる。
見る側としては、どの作品が好きかという話題提供にもなり得る作品にして、イタリア人的大らかさとスケベ根性も感じられよう。
ただし、公開当時、ローマ法王庁は本作を『神を恐れぬ背徳の映画にして、映画史上最悪の作品』と評した。
今見ると、どこがかな、と首をひねりたくなるのだが。