キリマンジャロの雪 – THE SNOWS OF KILIMANJARO(1952年)

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スタッフ

監督: ヘンリー・キング
製作: ダリル・F・ザナック
脚本: ケーシー・ロビンソン
撮影: レオン・シャムロイ
音楽: バーナード・ハーマン

キャスト

ストリート / グレゴリー・ペック
ヘレン / スーザン・ヘイワード
シンシア / エヴァ・ガードナー
リズ伯爵夫人 / ヒルデガード・ネフ
ビル / レオ・G・キャロル
ジョンソン / トリン・サッチャー
ベアトリス / エヴァ・ノーリン
コニー / ヘレン・スタンリー
エミール / マルセル・ダリオ

日本公開: 1953年
製作国: アメリカ 20世紀フォックス作品
配給: 20世紀フォックス


あらすじとコメント

今回も文豪ヘミングエイ原作の映画化作品。短編を大きく膨らませた、ある男の生き様を回想形式で描く作品。

南アフリカ、タンガニーカ。キリマンジャロ山麗の高原地帯に作家のストリート(グレゴリー・ペック)とヘレン(スーザン・ヘイワード)がいた。

ストリートは、数日前に右足を怪我し、そこが膿んで壊疽状態になり、生死の境を彷徨っていた。必死に看病を続けるヘレンだが、医師はおろか、一切の薬もなく、仲間が呼びに行った救助を待つしかなかった。

そんな中、彼は、行きつ戻りつする意識下で、自分の人生を振り返る・・・

へミングウエイ自身を彷彿とさせる作家の女性遍歴を描く。

アフリカの僻地で生死を彷徨う作家。彼が思い出すのは過ぎ去った女のことばかりである。

初恋の相手から、運命的なパリでのモデルとの出会い。その後は、芸術家のドイツ人伯爵令嬢。そして、今、彼の傍らにいる女。

それをパリ、アフリカ、スペイン、リヴィエラと随時、場所を変えて描かれていく。

新聞記者から『作家』へと人生を大きく変えた男。ひとつの場所に安住を望まず、世界を駆け回り、感性の触発に賭けていく。

かなり身勝手な男であり、そのくせ、いつも呵責に苛まれている。子供っ気が抜けないといえば、聞こえは良いが、常に人生に迷っている。

しかも、その人生には、翻弄される女性がいつも傍らにいるのだ。だが、作家らしく、どこか醒めてシニカル。ゆえに、彼に恋をする女性たちも個性派が揃ってしまう。

その女性たちを演じている三者三様の美人女優が素晴しい。

なるほど、主人公が惹かれ、且つ、葛藤をも喚起させていく、それぞれの美貌とワガママさ。

しかし、残念なのは、主役であるグレゴリー・ペックの下手さ加減。「大根役者」と呼ばれた意味が良く解る鷹揚過ぎる演技。女優陣が素晴しいだけに、一層際立つ。

しかし、逆説的にいえば、下手だからこそ、見ているこちら側も、彼の格好付けたがっているが、その実、情緒不安定な内面が滲む、という佇まいが伝わってくる。

ヘンリー・キングの演出は手堅く、禿鷹やハイエナといった「死」を連想させる象徴的な動物や、迫力あるサファリやカバの群れのアクション場面、他にも音楽やダンスによって女性心理の変化を浮かび上がらせていく展開も上手い。

特に、個人的贔屓のジャズ・サック ス奏者ベニー・カーターが登場し、彼の得意なメロウな演奏を聴かせてくれるが嬉しい。

更には、一本のマッチで男女二人がそれぞれの煙草に火を付けるというキザなラブ・シーンも心憎い。

世界を転々とする観光紹介的な設定は、時代性を感じるが、何のことはない、現在でも多く放送されているTVの旅番組だと思えば、納得が行く。

しかも、主役の設定が作家なので、数々の名台詞も登場する。「飛行機は馬より早いが、それで世界が良くなるとは限らない」とか、「世界中の薬を海に捨てたら、魚が全滅するだろう」といった、現在社会が当り前のように抱える問題を、当時から提起しているのも興味深い。

確かに便利で世界は狭くなり、逆に主人公のように、作家でもないのに、どこか精神を病んでいく人間も増えた。

そういった人間たちからすれば、あまりにも酷似した主人公に感情移入できないと感じる現代人も確実に増加したに違いない。

だが、だからこそ、この手の作品の存在価値があるのかもしれない。

余談雑談 2010年8月14日
実に久し振りに「観劇」に出向いた。 ヴェテラン脚本家、倉本聰による「歸國」である。65年前に戦死した兵士たちが、現在の日本に帰ってきて感じることを描いた、ある種、ストレートな作品。 『お国の為』と、それぞれの人生や青春を捨て、戦死していった