スタッフ
監督: ハワード・ホークス
製作: ハワード・ホークス
脚本: ジュールス・ファーズマン、ウィリアム・フォークナー
撮影: シド・ヒコックス
音楽: ホーギー・カーマイケル
キャスト
モーガン / ハンフリー・ボガード
エディ / ウォルター・ブレナン
マリー / ローレン・バコール
エレーヌ / ドロレス・モラン
クリケット / ホーギー・カーマイケル
ド・バルザック / ウォルター・モルナー
ジェラール / マルセル・ダリオ
コヨー中尉 / シェルドン・レオナード
ジョンソン / ウォルター・サンド
日本公開: 1947年
製作国: アメリカ H・ホークス・プロ作品
配給: ワーナー
あらすじとコメント
今回もヘミングウェイにした。前回扱った「海流のなかの島々」のラスト・エピソードで登場したシークエンス『旅』の元ネタと思しき作品。
1940年、仏領西インド諸島にあるマルティニーク島。第二次大戦が勃発し、降伏したフランスでは親独派のヴィシー政権が誕生し、この島もナチス・ドイツの管理下に置かれていた。
そんな島に、自身の所有する小さな漁船で客をカジキ釣りに連れて行くことを生業としているモーガン(ハンフリー・ボガード)というアメリカ人がいた。彼は、この二週間、船を借り切って釣りに挑戦しているが、まったく釣果がない客に対して、アル中気味の仲間、エディ(ウォルター・ブレナン)共々、閉口していた。
そんな彼は、定宿のホテルに戻ると、船の賃借料未払いの客から、財布を抜き取るマリー(ローレン・バコール)を見つけて・・・
良く出来たハード・ボイルド・タッチのメロ・ドラマ。
フランスは降伏したが、まだアメリカは参戦していない時期。中立というか、自分は政治や戦争には無関心だと言うクールなアメリカ男。しかし、心の奥底に秘めた思いは誰よりも熱い。
そんな彼が対独活動の渦に巻き込まれていく。
察しの良い御仁は気付くであろうか。ストーリィは、ほぼ、やはりボガード主演の「カサブランカ」(1943)と同じである。『酒場の店主』か、『船長』の違いだ けで、乗り気ではないが、ドイツの横暴過ぎる態度に腹を立て、また、愛する女のためにレジスタンス活動をしている夫婦を助けることになる。
その上、彼を取巻く人物も「カサブランカ」に重なる人間が多く登場する。
いけないと思いつつ、どうしても同一線上に観てしまう癖がある作品。
そんな中、一番の違いは女優の違 いだと感じている。片やイングリッド・バーグマン、こなたローレン・バコールである。
まったく違うタイプの女優だと思うが、主演のボガードはプライヴェートでバコールを選んだ。
本作がバコールの初出演作で、このときバコール21歳。片やボガードは44歳であった。本作の翌年に二人は結婚し、ボガードが死ぬまで連れ添った。
彼女は本作がデビューであるにもかかわらず、堂々とした演技を披露している。独特のハスキー・ヴォイスでクールな悪女という風情ながら、幼さと、妙に年相応ではない色気があり、決して上手いとは言えないが歌声も聞かせて絶品。
主役の相方役を務めたウォルター・ブレナンもお見事のひと言。また、ホテル付の歌手として出演しているのは、超有名なスタンダードの名曲「スターダスト」の作曲者でもあるホーギー・カーマイケル。
ヴァラエティに富んだキャストを手堅く、だが、飽きさせずにスムースに進行させる、堂に入った演出を見せるハワード・ホークスの手腕も素晴しい。
「用があったら口笛吹いて」とか、「死んだハチに刺されたことがあるか」といった、印象に残る名台詞が幾つも登場してくる。
人物の掘り下げ方や、どこか尻切れトンボのような結末など、時代がかっていると言われればそれまでだが、それでも、観るたびに心躍るのは、こちらが、単なる「パブロフの犬」ということだろうか。
例え、そうだとしても、やはり大好きな作品である。