斬る                 昭和43年(1968年)

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スタッフ

監督:岡本喜八
製作:田中友幸
脚本:村尾昭、岡本喜八
撮影:西垣六郎
音楽:佐藤勝

キャスト

兵藤弥源太 / 仲代達矢
田畑半次郎 / 高橋悦史
笈川哲太郎 / 中村敦夫
千乃 / 星由里子
荒尾十郎太 / 岸田森
鮎沢多宮 / 神山繁
森内兵庫 / 東野英治郎
よう / 田村奈己
竹井紋之助 / 久保明
道信和尚 / 今福正雄

製作国: 日本 東宝作品
配給: 東宝


あらすじとコメント

昨今、日本映画界は俄に時代劇ブームだという。以前は、粗製乱造の時期もあったが間違いなく、面白い作品も数多くあった。今回は、そんな『時代劇』から選んだ。西部劇好きの岡本喜八らしく、かなりウエスタンを意識した作品。しかも、「マカロニ・ウエスタン」風だ。

上州、某藩。天保四年三月のこと。国境に、腹を空かせたひとりの浪人、田畑半次郎(高橋悦史)がやってきた。この藩に来れば仕官にありつけると聞いてきたからだ。その一方、逆に藩から出ようとしているヤクザ者の兵藤矢源太(仲代達矢)もいた。

そこに藩の若侍たちがやって来て、突然、家老の行列に斬り掛かった。首謀者は笈川哲太郎(中村敦夫)で、家老の悪政から百姓一揆が起こり、農民側に付いたヤクザの親分らを打首にし、更に悪政を施行しようとしていたからだ。そんな若侍たちを、遠回しにけしかけたのは次席家老の鮎沢(神山繁)である。

笈川たちは、首尾よく行き、これで藩も安泰だと喜んだが・・・

快調なテンポで見せる娯楽時代劇の佳作。

自他共に認める「西部劇好き」の監督、岡本喜八。しかし、岡本以外にも、当時の日本映画の監督たちの多くは、西部劇に憧れ、いつか『本格的西部劇』を作りたいと願っていた。事実、日活などでは「無国籍ウエスタン」と呼ばれる作品もかなり輩出された。

しかし、どの作品も、所詮パクリであり、面白いものは、ほとんどなかった。そんな中、岡本監督は、かなり面白い視点で「西部劇風」な作品を撮り上げている。

本作はそんな一本であり、しかも、作劇は「アメリカ製の正統派」ではなく、パクリ専門であった「イタリア製マカロニ」である。

冒頭、砂嵐吹きすさぶ、一見、荒野のような場所でいきなり、マカロニ・ウエスタン調の軽快な音楽が流れる。

冒頭から、ニヤリとさせられた。そして、家老襲撃シーンも、やはりイタリア製を意識してか、腕や指が飛ぶという残虐性も垣間見せる。そして、話は、ややこしくなっていくのだが、それでも、とても解りやすく進行していく。

ふと考えると、悪代官による圧政を制圧すべく、立ち上がる若侍たち。そんな若者たちに肩入れしていく部外者。しかも、かなり知恵者にして、腕も立つ。

まるで黒澤明の「椿三十郎」(1962)と同じ設定である。更に、本作では、百姓が嫌いで侍になりたいと願う単細胞にして暴れ者という男も登場する。このモデルも、まさしく黒澤の「七人の侍」(1954)の三船敏郎の役と合致する。

そういう、パクリのまたパクリ的設定で展開するのだが、これが断然に面白いのだ。流石、岡本喜八絶頂期の作品だと思わず唸った。

いかにも監督らしい、リズミカルな編集と、一瞬、挿入される意外性のあるショット。そして、短いカット割で繋ぐアクション場面。

出演者も主役の仲代を筆頭に、昼行灯型老中の東野英治郎や、生臭和尚役の今福正男といったベテラン勢はいつも通り上手いが、本作での白眉は、単純ストレート型百姓上がりを演じた高橋悦史と、若侍を殺すべく派遣される素浪人集団の「討手隊首長」を演じた岸田森。

完全にこの二人が他の俳優たちを喰っていて、本作が両人の代表作とも呼べよう。それほど印象的で見事である。その証拠に、以後、両名とも岡本作品の常連になっていく。

リズミカルでいて、面白い設定と展開。異色とも呼べる娯楽時代劇の佳作である。

余談雑談 2010年9月23日
今回の都々逸。 「あついあついと言われた仲も 三月せぬ間にあきが来る」 確かに、今年は異様に暑かった。「真夏日」やら「熱帯夜」が、新記録を樹立し、こちらはエアコンの故障と取替えもあり、一時期は、命に係わるのでは、と心配もした。しかし、それこ