黄金 – TREASURE OF SIERRAMADRE(1948年)

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スタッフ

監督: ジョン・ヒューストン
製作: ヘンリー・ブランケ
脚本: ジョン・ヒューストン
撮影: テッド・マッコード
音楽: マックス・スタイナー

キャスト

ドッブス / ハンフリー・ボガート
ハワード / ウォルター・ヒューストン
カーテイン / テイム・ホルト
コーディ / ブルース・ベネット
マコーミック / バートン・マクレーン
ゴールド・ハット / アルフォンゾ・ベトーヤ
町長 / A・ソート・ランジェル
エル・ジェフェ / マニュエル・ダンデ
パブロ / ホセ・トーヴェィ

日本公開: 1949年
製作国: アメリカ ワーナー作品
配給: ワーナー


あらすじとコメント

ハンフリー・ボガート主演で、監督は「失われた世代」の一員ジョン・ヒューストン。人間のエゴと拝金主義の虚しさを描き切った傑作。

メキシコ、タンピコの街。1925年のこと。アメリカ人のドッブス(ハンフリー・ボガート)は極貧のどん底にいた。裕福そうな同国人の紳士を認めると、力なく小銭をせびった。紳士は、これで3度目だと嘲笑うと、今を最後にしろと余計に金を恵んでくれた。

それによって彼は、少し運も上向いたのか、油田採掘のための作業小屋を作る仕事にありつけた。そこでカーティン(ティム・ホルト)と知合う。

しかし、彼らは過酷な労働の果て、手配師から金を貰えず逃げられてしまう。またもや運に見放されたと思うが、手配師を偶然、見つけると二人して金を奪った。

しかし、このままでは先行きは惨憺たるものである。悩む二人は、偶然、木賃宿で知合ったハワード(ウォルター・ヒューストン)が、金鉱探しの話をしているのを聞いて・・・

『夢』と『富』が産みだす人間の業を描いた傑作。

世界恐慌の中、自国を捨てメキシコに行ったが、ロクな仕事もなく、極貧のどん底に喘ぐ人間が「一攫千金」を夢見る。しかし、その方法とは、宝くじや競馬と違い、命懸けの行為である「砂金探し」だ。

そこに、男として「ロマン」や「勝負」を重ねる人間もいるかもしれない。だが、本作で描かれるのは、そんな生やさしいものではない。

ヒューストン監督は、徹底したドライさとシニカルさを伴ったリアリティで押してくる。完全なるハード・ボイルドの世界ともいえようか。

それを見事に緩急の付いた展開で一気に見せ切る力量には、脱帽である。

冒頭、主人公であるボガートが底の浅い人間ゆえに自らが落伍者になったと感じさせる短いエピソードの積み重ねが、やがて彼が陥るであろう『脆弱さ』を際立たせていく展開から、画面に引き込まれる。

しかも、金を恵んでくれと三度もせびる相手を監督自身が演じている洒落。そんな進行を時にユーモラスに、こちらの失笑を伴わせながら描いて行く愉悦。

そして、孤独だと思っていた主人公が、信用に値する『相棒』を見つける。年は若いが、同国人であり、彼以上に義理に厚いと感じさせる好漢である。続いて、欲深いが達観した雰囲気を持つ老人が登場してきて役者が揃う。

三者三様の男たちが、一攫千金を夢見て前人未到の山奥に砂金を探しに行くあたりから映画のトーンは、妙なサスペンス感が伴いだす。

それは、何度も砂金を探し当てたが、結局は汚い木賃宿にいる老人が、自身の人生を振り返りながら話す内容ゆえだ。

『人間は夢が叶ったときに、その人間の持つ本性が現れる』という、誰でも想像が付くことである。

観る側も先読みをする。そして、当然、その通りの進行になるから、当時の映画なのだ。

しかし、本作は次々と思いも拠らぬ人物が登場してきたり、そう来るかという展開が待ち受ける。実に上手い作劇である。

演技陣も、ボガートを筆頭に皆、上手いが、中でも、老人役を演じたサイレント期からの映画や舞台での名優であり、監督の実の父親であるウォルター・ヒューストンは白眉である。本作でアカデミー助演男優賞を受賞したのも、さも有りなんと感じる名演技だ。

当然といえば当然だし、正論といえば正論というラストだが、見事に『一本、綺麗に取られた』と感じる作劇に酔える、アメリカ映画史上の傑作に列せられる作品である。

余談雑談 2010年9月25日
年老いた母が営む実家の煙草店。 十月からの値上げが目前である。先立ても、まったく知らない男性が小さな子供を自転車に乗せてやって来た。「~を10カートンください」 「駆込み需要」なのだろう。だが、対応したのは母親。こちらは近くのテーブルで一服