バンド・ワゴン – THE BAND WAGON(1953年)

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スタッフ

監督:ヴィンセント・ミネリ
製作:アーサー・フリード
脚本:ベティ・コムデン、アドルフ・グリーン
撮影:ハリー・ジャクソン
音楽:アドルフ・ドイッチ

キャスト

トニー / フレッド・アステア
ギャビー / シド・チャリス
レスター / オスカー・レヴァント
リリー / ナネット・ファブレイ
ジェフリー / ジャック・ブキャナン
ポール / ジェームス・ミッチェル
ハル / ロバート・ジスト
靴磨き / リロイ・ダニエルス
のっぽ女 / スー・ケイシー

日本公開: 1953年
製作国: アメリカ MGM作品
配給: MGM


あらすじとコメント

MGMの看板だったジーン・ケリーと対極のミュージカル・スター。それはフレッド・アステア。個人的には大の御贔屓だ。

そんな彼の出演作の中でも最高峰の一本。

アメリカ、ニュー・ヨーク。大ミュージカル・スター、トニー(フレッド・アステア)はかつてハリウッドの人気者だったが、今では皆から忘れ去られていた。そんな彼を盟友レスター(オスカー・レヴァント)とリリー(ナネット・ファブレィ)夫妻がブロードウェイでの新作のためにロスから呼びだした。

内容を聞いて乗り気になるトニー。そしてブロードウェイの有名俳優兼演出家のジェフリー(ジャック・ブキャナン)も興味を示してきた。そうなれば鬼に金棒とばかり、ジェフリーに会いに行くトニーたち。しかし、彼は高尚過ぎる考えの持ち主で、単なるミュージカル・プレイを「現代版ファウスト」と曲解し、難解な作品へと変貌させようとし始める。戸惑うトニーたち。しかし、彼の人気は絶大で、彼がショウの投資者を集めるというので、無碍にもできない。

当初とは違う方に動き出した企画に不安を感じるトニー。すると今度はレスターが、共演を売出し中の新人バレリーナ、ギャビー(シド・チャリス)にすると言いだした。だが、彼女の恋人で振付師のポール(ジェームス・ミッチェル)は、バレエこそ最高の芸術で、ブロードウェイ・ミュージカルなど下品だ、と見下している男だった。

だが、彼らの協力なしではショウの幕は上がらない・・・

MGM製ミュージカルの中でも傑作の一本。

事実、個人的には一番好きなミュージカル映画だ。適材適所の配役、素晴らしい楽曲の数々。奇を衒うことなく心地良く見ていける安定感あふれる演出。そしてコメディ要素。単純明快な展開。

登場人物も当時の映画、ミュージカル・ファンであればすぐ解る設定だ。例えば、ジェフリーは、ブロードウェイで名を馳せていた名優ホセ・ファーラーと奇怪な人物として活躍していたオーソン・ウェルズが合体したもの。作詞家と作曲の夫婦は前回の「いつも上天気」と、今回も脚本を書いたベティ・コムデンとアドルフ・グリーン夫妻自身。ヒロインのシド・チャリスは、バレリーナ出身で彼女自身。

そして何よりも白眉なのは主役のフレッド・アステアだ。この役も彼自身。しかも、製作当時は実際に落ち目だった。

本作のタイトル・ロールはシルク・ハットとステッキのアップから始まる。当時の人間は、この二つのアイテムを見ただけで、アステアのトレード・マークであると分かる仕掛けだ。

しかし、映画が始まるとそれがオークション会場で競りにかけられている。それが出展者の思いの他、入札がかからず金額を下げ続けるのに誰も落札しようとしない。何という失礼極まりないけんか腰の展開だろうか。その後も、当時人気絶頂だったエヴァ・ガードナーを彼女自身として出演させ対比するなど、主人公がいかに忘れられたかつてのスターかと見せ付ける。

良くぞアステアが出演を許諾したと感じた。だが、だからこそ、プロ根性が染み付いた彼が、その挑戦を受けてたったのかもしれない。結果、傑作と相成っているのがその証左か。

このアステアは、顔はひょうたんで痩せ過ぎという印象だが、踊ると他の追従を許さないほどエレガントで軽やか。まるで羽毛のようで、体重など何グラムしかないのではないかと思わせる。そんな彼が自分より重いと思わせる相手役を軽々と持ち上げたりしながら、見事にダンスをリードする。

彼は1900年生まれ。だから、彼の主演作の製作年度を見れば、彼が何歳の時のかが分かる。本作では52歳だ。その歳でこれだけの踊りが出来るとは驚愕である。

しかも、どれだけ彼の存在が凄いかというと、ずいぶん昔の話ではあるが、マイケル・ジャクソンが今まで生きてきて、一番嬉しかったことは、とインタビューを受けたときの答え。世界中でミリオン・セラーになったとかではなく、彼が「スリラー」を発表した当時、直接、アステアから電話がかかって来て、『君の踊りは素晴らしい』と言われたことだ、と答えた。あの、ダンスの名手のマイケル・ジャクソンにして、そう言わしめた存在。

そんなアステアは元来、努力家でアイディアマンだった。だから彼のミュージカル・ナンバーにはトリック撮影を駆使したものや、面白い合成で綴られる楽曲も多い。しかし、本作でシド・チャリスと夜の公園で踊る「DANCING IN THE DARK」は、シンプル・イズ・ベストの極みで彼のキャリアの中でも最高峰と呼べる一曲だろう。エレガントで、ムーディで、息をのむほどの美しさだ。何十回見ても見飽きることはない。絶対に不可能だと確信しつつ、いつか、夜の公園でこのダンスをしてみたいという願望が今でもある。

他にも、黒人の靴磨きとアステアがゲーム・センターで歌い踊る「A SHINE ON YOUR SHOES」も明るくて楽しいナンバーだ。しかも相手役の黒人は本当の靴磨き。実際に小躍りしながら仕事をしているのを見て、わざわざスカウトしてきた。

またラストで10数分間に渡って、披露される「GIRL HUNTBALLET」は、当時流行していたミッキー・スピレーンのハードボイルド小説をミュージカル・アレンジしたもの。ここでのアステアは、ちゃんと私立探偵に見えるから不思議だし、また、このシーンでのチャリスのヴァンプ的美しさは筆舌に尽し難い。

他にも大の大人三人が赤ん坊になる「TRIPLET」や、アステアとブキャナンが燕尾服でエレガントに唄い踊るものなど、多岐に渡る。

更に、印象深いのがミュージカルというショウの真髄を面白おかしくメイン・キャストたちで唄い踊る「THAT’S ENTERTAINMENT」。この曲は三回前にここで扱ったMGM ミュージカルの集大成にして、名場面集でもある作品のタイトルにもなっている。本作がMGMの中でどれほどの位置に置かれているかが解るだろう。

これぞ、ミュージカル。これぞアステア。映画は娯楽であるということを証明してくれる究極の作品。

余談雑談 2007年6月23日
エリック・バナとドリュー・バリモアのでている「ラッキー・ユー」を見た。ラスベガスが舞台で、ポーカーで生計を立てているギャンブラーの青年と歌手志望の女性の話。 映画はポーカー・ゲームがメインだが、その他、何でも賭けの対象にしてしまうギャンブル