ねずみの競走 – THE RAT RACE(1960年)

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スタッフ

監督:ロバート・マリガン
製作:ジョージ・シートン、ウィリアム・パールバーグ
脚本:ガースン・ケニン
撮影:ロバート・パークス
音楽:エルマー・バーンスタイン

キャスト

ピート / トニー・カーティス
ペギー / デビー・レイノルズ
マック / ジャック・オーキー
ソーダ / ケイ・メドフォード
ネリー / ドン・リックルス
フランキー / ジョー・ブッシュキン
ジェリー / ジェリー・マリガン
トニ / リーザ・ドレイク
電話工 / ノーマン・フェル

日本公開: 1960年
製作国: パールバーク&シートン・プロ作品
配給: パラマウント


あらすじとコメント

今回も大都会に翻弄される人間を描く作品。前回と違い、大都会にでてきたのは女性でなく、純真な青年。

アメリカ、ニューヨーク。サックス・プレーヤーのピート(トニー・カーティス)は、一流ジャズ・ミュージシャンになる夢と希望を抱いてミルウォーキーから長距離バスでやってきた。早速、田舎で得たチラシを持って割引料金のあるホテルに直行する。しかし、その広告は嘘で、当然のように法外な料金を要求され、しかたなく別な場所を探す羽目になってしまう。

安いホテルを探すうち、たどり着いたのは場末。大荷物を持ついかにも田舎者という風情ゆえに、地元の不良少年たちにからかわれ、ふと眼に入った『マックズ・バー』へ逃げ込んだ。そこは初老のマック(ジャック・オーキー)がひとりでやっている店だった。カウンターの隅に、店の常連で刺々しい中年女ソーダ(ケイ・メドフォード)が坐っていた。すると、暑いから氷だけ頂戴、と若い女が入ってきた。彼女の名はペギー(デビー・レイノルズ)。5年前にやはり、夢と希望を抱いてNYにやってきたのだった。しかし、今は場末のダンス・ホールで孤独な客の相手をするしがないダンサーだ。ソーダはいきなり彼女へ敵意を向けた。氷を貰うと、そそくさと帰っていくペギー。

ソーダはバーの真向かいのアパー トのオーナーで、家賃を払えないペギーを追いだそうとしていたのだ。そんなことは露知らず、ピー トは部屋を探しているとソーダに言うと、ちょうど、今日の午後でて行く人間がいるから、そこを貸すと答えた。素直に喜ぶピートだが、そこはペギーの部屋だった。

彼が部屋で荷物を解いているとペギーが帰ってきた。ことの次第を察知したペギーは荷物をまとめる。しかし、彼女には行く当ても金もなかった。そのことを知ったピートは親切心から、数日、共同生活をしないかと提案する。いぶかしがる彼女だったが、渡りに船でもあった。「大丈夫だよ。安心して。ヘンな気はないから」純真にそういう彼に侮蔑の目を向けた。「あなたは田舎者ね。3ヶ月もしないで、この街に打ちのめされ、締め出され、拒絶されるわ」驚くピート。

それがニューヨークなのよ・・・

純情で真っ直ぐな田舎出の青年と都会に打ちのめされた女の不思議な関係を描くドラマ。

本作も前々回の「この愛の終わりに」同様、ブロードウェイの戯曲の映画化。まったく個人的にだが、前回の「愛はひとり」と「この愛の終わりに」と本作を『大都会の孤独 三部作』と呼んでいる。地方出身者が描いていた大都会での夢と現実のギャップを際立たせ、身を切るほどの孤独感を浮かび上がらせる作劇ゆえに。

他人を信用せず、異様に金に執着するアパートのオーナーの独身中年女。ダンスの相手だけじゃ金にはならん、と客と寝るように勧めるダンス・ホールのオーナーや、やけに馴れ馴れしいジャズメンなど、実に、さもあらんという設定の人物たちが登場する。心優しきバーのマスターでさえ、かなりの毒を持っている。それが都会人であるかのように。

また、ペギー自身も借金は払う意思はないし、電話料未納のため、電話器を取り外しにきた電話工に、さも、あなたと寝るから2週間待ってと匂わせたり、都会でひとり生きていくために、すれっ枯らしになっている。

そんな登場人物たちの中で、田舎から来たばかりの主人公がだまされ、打ちのめされても、夢と希望を失わず、やがて、大都会でひっそりと孤独に暮らす人間たちに、ひとすじの光明を与えていくのだ。

いささか時代がかっているとは感じるが、製作された時代を考えればしょうがないだろう。

主役を演じているトニー・カーティスはいかにもトッポい田舎の兄ちゃんのイメージがあるので、適役ではあるのだが、ちょっとミス・キャストという感じがする。だまされる方より、どうにもだます側という感じがするのだ。

他の助演陣は素晴らしい。ペギーを演じているデビー・レイノルズは「雨に唄えば」(1952)など、MGMの一連のミュージカルでは、唄って踊れて、はつらつとした役ばかりを演じてきたが、本作での疲れ果て安易な方に妥協し、かつ人生から逃げている負け犬を演じて秀逸。

また、人生に達観しつつ、冷たい一面を覗かせるバーのマスターを演じたサイレント映画時代の大御所ジャック・オーキーと単なるスケベ親父と思わせておいて、実は金にこそ厳しいダンス・ホールのオーナー役のドン・リックルスが印象的。

他には、製作当時散々持て囃されたモダン・ジャズが多用され、サックス奏者ジェリー・マリガンやピアノのジョー・ブッシュキンなどのホンモノのプレイが見られるのも楽しい。

人は信用できるという、やや甘い時代的な設定は感じるが、大都会で蠢く心淋しき人間たちが絶望を感じつつ何とか生きようとする姿は、現代人の心に重い何かを残してくれる。

余談雑談 2007年8月4日
「オーシャンズ13」を見た。息の合った仲間でワイワイ楽しみながら作った映画。完全にジョージ・クルーニーは往年のフランク・シナトラを意識していると感じた。親分肌で、ブラピやマット・ディモンを手なずけているという風情。 ただ、今回一番面白かった