スタッフ
監督:ロバート・アルドリッチ
製作:ハロルド・ヘクト
脚本:ローランド・キビー、ジェームス・ウェッブ
撮影:アーネスト・ラズロ
音楽:ヒューゴ・フリードホッファ
キャスト
トレーン / ゲーリー・クーパー
エリン / バート・ランカスター
デュヴァル伯爵令嬢 / デニス・ダーセル
ラボルデュエ侯爵 / シーザー・ロメロ
ニーナ / サリタ・モンティエール
ドネガン / アーネスト・ボーグナイン
ピッツバーグ / チャールス・ブロンソン
デックス / ジャック・イーラム
マクシミリアン皇帝 / ジョージ・マクレディ
日本公開: 1955年
製作国: アメリカ ヘクト&ランカスター・プロ作品
配給: 松竹、ユナイト共同配給
あらすじとコメント
引き続きバート・ランカスター。当時大スターだったゲーリー・クーパーの脇に廻りながら、主役を完全に食って、したたかな俳優と認知された西部劇。
南北戦争直後のメキシコ。メキシコでは国を統括する皇帝側と革命反乱軍との間で内乱が起きていた。
それに乗じて一旗挙げようとアメリカから、南軍関係者やならず者が多く流れ込んできた。元南軍将校トレーン(ゲーリー・クーパー)もそのひとり。彼は足を傷めた馬の代わりを買い求めようとしていた。運良く馬を見つけ、持主らしいエリン(バート・ランカスター)に声を掛ける。しかし、エリン は不敵な笑を浮かべ、法外な金額を提示した。仕方なく有り金をはたいて買うトレーン。直後、メキシコ皇帝軍がやって来て、いきなり二人を銃撃してきた。驚くトレーンに、その馬は軍隊から盗んだ馬だと大笑いし、逃げだすエリン。
別々に逃げた二人だったが、やがて再会を果たす。そこでエリンの子分たちも登場し、一触即発となるが、自分らは金目当てにやって来たのだし、ひとりでも仲間が多いほうが高く売り込めるから、と無駄ないざこざは避けようと相成った。政治信条に関係なく、革命軍、皇帝軍どちらでも多く金をくれるほうに加担しようとするエリン。
結局、いかにも金満そうなラボルデュエ侯爵(シーザー・ロメロ)に誘われ皇帝軍に決める一行。そんな彼らは歓待を受け、皇帝に謁見すると、すぐさま仕事を依頼される。パリに帰るというデュヴァル伯爵令嬢(デニス・ダーセル)を革命軍がうようよいる場所を通り、港町ヴェラクルスまで無事送り届けろというのだ。
誇り高き騎兵隊の随行で、一行は煌びやかな馬車に令嬢を乗せ、出発するが・・・
欲に取り憑かれた人間たちが繰り広げる異色西部劇の佳作。
何が異色かといって登場人物全員がダーク・サイドを持っている。つまり、単なる善人が登場しないのだ。
当時、ほとんどの西部劇は、保安官なり、善意の流れ者が凶悪な相手を倒すという、いわば『弱気を助け強気を挫く』という単純明快な作品が多かった。そういう作品群と違い、ほとんどの登場人物たちによる裏切りと共謀が繰り返される。
冒頭のクーパーとランカスターの馬の売買を巡る丁々発止のやりとりから映画に引き込まれる。主役二人の性格設定と以後の展開に含みを持たせる上手い設定にして、当時としては実にリズミカルな展開といえるだろう。
その後に登場する人間たちも腹に一物持っている。金になびく荒くれ者たちは当然として、政治的意図を持つ皇帝、革命軍の将軍から、老獪な侯爵、美しい伯爵夫人、名誉欲の塊の若き騎兵隊長、そして貧しい果実売りの女。
誰が味方で誰が敵なのか。そういった人間たちが絡み合うストーリィに大掛かりな戦闘シーンが上手いバランスで挿入される。それでいて1時間32分の時間に収める。いやはや、さすがお気に入りのアルドリッチ監督だと微笑んだ。
脇にも、後の監督作品「特攻大作戦」(1967)で再度共演するチャールス・ブロンソンとアルドリッチ一家のアーネスト・ボーグナインが出演し、ファン心をくすぐる。
しかし、何といっても白眉はランカスターだろう。黒ずくめの衣装で登場し、日焼けし薄汚れた顔から垣間見せる真っ白い歯。ふてぶてしくてチャーミング。
個人的には、特に昨今の、映画俳優の難点として、汚れ役や大昔の時代設定の作品なのに歯だけは矯正し、真っ白いという違和感を覚えることが多いが、本作のランカスターはそれを逆手に取った勝利といえるだろう。
主役のクーパーは、以前は二枚目のプレイボーイや正義の味方という単純明快な役ばかりだったので、陰影を持つ性格俳優として認知される作品を選び、出演していた時期。
本作も負けた元南軍の大佐で、焼き払われた家を再興する資金欲しさにやって来たが、根は紳士で銃の達人という役。しかも豪快に笑うランカスターに対して、一切、笑顔を見せないで渋さを醸しだす。しかし、その中途半端な設定が逆に仇となった。
製作にも関与しているランカスターは当初、クーパーの役を自分で演じ、おいしい役である敵役をケーリー・グランドにオファーした。しかし、グランドは自分のイメージに合わないと辞退した。
このグランドという役者もクーパー以上に、お洒落でチャーミングなプレイボーイを演じたら右にでる者がいないといわれていた役者。ランカスターの製作者としてのセンスに膝を打った。
昨今、めっきり見られなくなった映画全盛期の作品にして、今見ても面白いと感じる娯楽巨編。