スタッフ
監督:ジョン・ギラーミン
製作:エルモ・ウィリアムス
脚本:ジェラルド・ハンリー、D・パーセル、J・シェッドン
撮影:ダグラス・スローカム
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
キャスト
スタッヘル / ジョージ・ペパード
クリューガー大将 / ジェームス・メイソン
カエティ / アーシュラ・アンドレス
クルーガーマン / ジェレミー・ケンプ
ハイデマン隊長 / カール・ミカエル・フォーグラー
エルフィ / ロニー・フォン・フリードル
フォルバッハ / アントン・ディファリング
ルップ / ピーター・ウッドソープ
リヒトホーフェン / カール・シェル
日本公開: 1966年
製作国: アメリカ 20世紀フォックス作品
配給: 20世紀フォックス
あらすじとコメント
前回紹介した「突破口!」で重要な役割を果たした複葉機。今回はその複葉機に乗るパイロットの壮絶な人生を描く巨編。
1918年、第一次大戦下のフランス。ドイツ軍の歩兵だったスタッヘル(ジョージ・ペパード)は、空を優雅に飛ぶ空軍の飛行機に憧れを持った。
その後、飛行学校をでたスタッヘルはハイデマン(カール・ミカエル・フォーグラー)の指揮する飛行部隊へ配属される。しかし、ハイデマンは彼に嫌な雰囲気を感じ取った。また、貴族階級が多い隊員たちも一様に、貧民出身で自分のみが伸し上り、自身の手で英雄になることは当然という言動をとるスタッヘルに侮蔑の目を向けた。そんな彼の貪欲なまでの出世欲は初出撃で顕著になる。彼が敵機を撃墜したが、観測班が墜落機を発見できないので、彼の戦果が記録に残らないと決まった後、部下を連れて夜通し探索にでたのだ。そういった言動から、部隊内で浮いていくスタッヘル。
腹の虫が収まらない彼は部隊の英雄である撃墜王のクルーガ-マン(ジェレミー・ケンプ)と組んでの戦闘中、敵機を空中で降伏させ、基地へ連れ戻ってくる。こういったことは前代未聞のことだった。ところが、着陸直前、相手の機銃手が攻撃を加えようとしたので、仲間たちの眼前で撃墜するスタッヘル。だが、隊員たちの前でのパフォーマンスだと思われ、彼は完全に孤立してしまう。
そんな彼にクリューガー大将(ジェームス・メイスン)が眼を留めた・・・
野望に燃える男をスケール感たっぷりに描く戦争大作。
貧富の差が歴然としていた時代。背景は初の近代戦といわれた第一次世界大戦。しかし、地上では砲火の中、命令一下、塹壕から突撃し、銃剣で刺し合うという肉弾戦がメインだ。その上空を優雅に飛ぶ複葉戦闘機。主人公がそれを見上げるのがファースト・シーン。解りやすい構図で幕が上がる。
映画はその後の展開が凄まじい。先輩パイロットたちは、自分たちを特権階級として認識し、戦いにも気高さと騎士道精神を重んじている。当然、主人公は反発する。そして撃墜王になり、『ブルー・マックス』勲章を授与されたいと心底願うようになる。
そんな彼の心情を知って、宣伝に利用しようとする上層部。主人公もそれを知っている。だが、何としても、伸し上がりたい。そのためには手段は選ばないのだ。それは爵位を持った上官だろうと、将軍の若き妻だろうと、自己のために利用する。
こういった設定に観客は好き嫌いが分かれるだろう。しかし、作劇は立派だ。迫力ある肉弾戦から、映画史上初めてといえる縦横無尽なカメラ・ワークによる複葉機の戦闘シーンなどスケール感たっぷりに描写されていく。
個人的には超音ジェット機やSF映画での空中戦など、スピード感溢れる戦闘シーンも好きだが、こういった複葉機による、どこか優雅さを感じさせるのも大好きだ。風になびくパイロットのマフラー、そしてパイロット同士がアイ・コンタクトできる距離での機銃射撃による接近戦。
確かに、どこか気高ささえある。そして、ジェット機などと違う、その低速さゆえに眼下に広がる景色のゆっくりとした流れ方。どこか乗馬にも似たエレガントさがある。ゆえに貴族階級の嗜みとして特権意識と仲間意識が混在する世界。
それを痛感させられる陸と空の戦闘シーンの違い。特にワイド・スクリーンの魅力をフルに活用した物量的肉弾戦が繰り広げられる悲惨な戦場の上を優雅に飛び、機銃掃射を浴びせるシーンなど、立場の違いをひとつの画面で見事に、かつ雄弁に語っている。
だからこそ、泥まみれの歩兵上がりの主人公が、牙をむいていくのだ。
しかし、これほど感情移入がしづらい登場人物が多い作品も少ない。己の立身出世のために手段を選ばない主人公。特権階級にあぐらをかき、他の人間たちを完全に見下すパイロットたち。戦意高揚のために、貧民出身者を英雄として宣伝材料にする将軍たち。そして、自分は上流階級の女として立ち振る舞う嫌味で好色な女。
そういった、嫌な人間たちの間で繰り広げられる人間ドラマと壮大で悲惨な戦闘場面。このような展開ゆえ、カタルシスは最後まで昇華しない。
二時間半を超える長尺な映画だが、緩急のついた作劇で飽きない佳作である。