余談雑談 2008年6月14日

最近、ここで映画関係者の訃報を扱うことが増えた気がする。今回もそうだ。

映画評論家にして監督の水野晴郎。ただ、今までの単に作品を通して知っていたハリウッドの映画人たちと違い、直接の思い出がある。自分もライターであるので、幾度となく彼を試写室で見かけた。

プロとして試写室で映画を見るのは、一般の観客を招待する試写会や、劇場と違って独特の雰囲気がある。それは、見に来ている人間が鑑賞後、様々な媒体で扱うため、コメディ映画でも笑い声も起きなければ、感動作でも涙を見せる人間が少ないから。作品を冷静に分析しながら見ようとするある種のプロ意識かもしれない。そんな中、彼は大声で笑うし、鼻をすすって泣く人だった。

ひとつエピソードを紹介しよう。「シベリア超特急」シリーズのとある試写のとき、わざわざ小さな試写室まで来て、上映直後、プロのライターや評論家相手に、テレビのときとまったく同じ口調で、見所や撮影秘話などを解説してくれた場に居合わせたことがある。ところが、ほとんどの人たちは、他の試写のハシゴを考え、一刻も早く移動したいのに動けない状況になってしまった。それでも親切に20分も生で解説。

ある意味、貴重な体験であった。解説後、ライターたちがハシゴをあきらめて、お互いに首を振って苦笑していた姿が忘れられない。それほど、あのシリーズに情熱を注いでいた証左であろう。

映画に捧げた人生。彼の映画や解説の好き嫌いは分かれようが、『映画に捧げた人生』と呼べる一生を送っているプロで、媒体への露出度の高い関係者は、一体、誰が残っているのだろうか。

毎晩、TVのゴールデン枠で映画が放映されていた頃。映画をちゃんと知っていた評論家などが解説をし、映画の流れや見方を簡便に教えてくれていた頃。

時は流れ、そういったTV放映もなくなり、放送前後に登場して印象に残るコメントをする解説者もいなくなった。現代は、試写会での一般招待客の感想を公開前にこれでもかとTVスポットで流して、ヒットさせる時代。

ある種、個人的な思い入れと共に、他人に伝えていこうとするプロの時代は、静かに終焉を向かえ、幕を下ろしていく。

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