スタッフ
監督:ジュールス・ダッシン
脚本:ジュールス・ダッシン、ルネ・ウェーレル、
オーギュスト・ル・ブルトン
撮影:フィリップ・アゴスティーニ
音楽:ジョルジュ・オーリック
キャスト
トニイ / ジャン・セルヴェ
ジョウ / カール・メーナー
マリオ / ロベール・マニュエル
セザール / ジュールス・ダッシン
ピエール / マルセル・ルポヴィッチ
ヴィヴィアナ / マガリ・ノエル
レミー / ロベール・オッセン
ルイーズ / ジャニーヌ・ダルセー
ルイ / ピエール・グラッセ
日本公開: 1955年
製作国: フランス パテ・シネマ作品
配給: 東和映画
あらすじとコメント
宝石強盗をセミ・ドキュメンタリー・タッチで描く。今回はフランス映画。これまた渋くて素晴らしい作品。
パリ、モンマルトル。刑務所を出所したばかりのトニイ(ジャン・セルヴェ)は賭けポーカーで一文無しになり、旧友のジョウ(カール・メーナー)に金の工面を頼んだ。自分の罪を背負って服役したトニイに恩義があったジョウは妻と5歳になる息子がいる自宅へ彼を連れ帰った。そこでジョウは宝石店強盗の計画があるから一枚加われと誘った。だが、トニイは現在、ナイトクラブの「黄金時代」経営者の情婦になっているという噂がある妻が気になっていた。一応考えると告げ、妻の元へ向かうトニイ。噂は本当だった。クラブのボスたちに臆することなく、妻を自宅へ連れ帰り、激しく殴りつける。
一切の未練がなくなったトニイはジョウに参加すると答えた。早速、ジョウはミラノから金庫破りのプロ、セザール(ジュールス・ダッシン)を呼び、仲間のマリオを加え実行に及ぶ。犯行は成功した。時価二億フランの宝石はロンドンで換金する段取りだった。
だが、ふとした出来心で指輪のひとつを隠し持ったセザールが、一度だけ関係を持った「黄金時代」の歌手ヴィヴィアナ(マガリ・ノエル)に、それを贈ったことから・・・
クールでキザなフィルム・ノワールの秀作。
暗黒街に生きる男たちの義理人情。ある者はかつて愛した妻へ暴力を振るい関係を断ち切る。ある者は愛する家族がいるのにもかかわらず犯罪から足を洗えない。また、ある者は女への好意から隙を見せてしまう。そして、警察に内通しているクラブ経営者。その弟はヘロイン中毒だ。
いかにも設定だ。そういった人間たちが絡み、やがて思いがけない方へとストーリィが転がり、それぞれに不幸が待ち構えている。当時の映画としては当然の帰結であろう。それを、実にクールに描いていく。
監督は金庫破り役で出演もしているジュールス・ダッシン。名前はフランス系だが、れっきとしたアメリカ人。ヒッチコックの「スミス夫妻」(1941)で助監督を務めた後、監督になった。しかし有名な『赤狩り』の標的となり、「公敵第一号の監督」とのレッテルを貼られ、ヨーロッパへ亡命した。その五年後、フランス映画の本作で復活した。
それゆえか、本作はクールだが、どこか、鬱憤を晴らすかのようなバイタリティ漲る映画に仕上がっている。演出には彼の情念のようなものが感じられ、また、演技者としてはキザなチョイ悪親父風だが、実質は弱い男を嬉々として演じている。その両方が見事に調和しているのが、宝石強盗のシーンだ。
このシーンは映画史上に残る名場面のひとつとして記憶されて良い。何と25分にも及ぶ侵入から脱出までを克明に、かつ、一言の台詞もなく、映像だけで見せ切るのだ。しかも、ユーモア溢れる場面を挿入し、メリハリの効いた緊張感を途切れさせないのだ。
観客も、完全に強盗団の一員になったような錯覚に陥り、咳払いひとつ出来なくなる。その上、ユーモア溢れるシーンでも、声をだして笑えないという複雑な心境になる。息を殺し、手に汗握りながら映画に見入ってしまい、監督の術中に完全に嵌ってしまう。
他にも、営業時間外のナイトクラブでミュージシャンたちが、三々五々集まってきて、それぞれの楽器を奏でだし、最後に女性シンガーが渋く歌い始めるというジャズ好きには堪らないシーンも登場する。
そしてある意味、最高のユーモアとも取れるし、一番白眉なことだと感じるのは、カンヌ映画祭でダッシンが最優秀監督賞を受賞したことだろう。何せ、彼は『赤狩り』で糾弾され、ハリウッドから亡命していたのだから。ヨーロッパの映画人たちがハリウッドをどう捉えていたかが完全に理解できよう。
些か、時代性も感じるし、女性の扱い方が中途半端という気もするが、主役の男たちには華がある。
これぞ、フランスのフィルム・ノワールと呼べるクールな作劇に酔える秀作。