スタッフ
監督:レオ・マッケリー
製作:ジェリー・ウォルド
脚本:デルマー・ディヴィス、レオ・マッケリー
撮影:ミルトン・クラスナー
音楽:ヒューリー・フリードホッファ
キャスト
フェラント / ケーリー・グラント
テリー / デボラ・カー
ロイス / ニーヴァ・パターソン
ケネス / リチャード・デニング
祖母 / キャスリーン・ネスビット
アナウンサー / ロバート・Q・ルイス
ハサウェイ / チャールス・ワッツ
コルヴェット / フォーチュニオ・ボナノヴァ
オーファン / ジュヌヴィエーヌ・オーモン
日本公開: 1957年
製作国: アメリカ J・ウォルド・プロ作品
配給: 20世紀フォックス
あらすじとコメント
「我が道を往く」の監督レオ・マッケリー。その彼が、かつて自分で撮った作品を自身でリメイクしたメロドラマの秀作。
南仏マルセイユからニューヨークへ向かう豪華客船。
そこに世界的に有名なプレイボーイのフェラント(ケーリー・グラント)が乗っていた。彼は遂に年貢を納め、大金持ちの跡取り娘ロイス(ニーヴァ・パターソン)と結婚を決めたのだ。また、その客船にはテリー(デボラ・カー)が乗船していた。彼女は仕事に忙殺されている実業家の許婚者を残し、たったひとりでヨーロッパ旅行にでかけ、帰国する途中だった。
偶然、船内で知合う二人。遊び人のフェラントはすぐに彼女に色目を使うが、フィアンセがいるにもかかわらず、自信満々で近付いてくるので鼻持ちならない男だと感じた。しかし、狭い船内では否が応でも顔を合わし、次第に惹かれていくテリー。
航海の途中、5時間だけ停泊したヴィール・フランシェで、フェラントは小高い丘にひっそりと住む祖母(キャスリリーン・ネスビット)に会いに行こうとテリーを誘った。優雅で気高い祖母は、テリーこそ貴方にお似合いよ、と告げ、恋を確信する二人。しかし、双方には別な相手がいる。それでも、これこそが真実の愛だと気付いたフェラントは今までの放蕩三昧を反省し、一からやり直そうと決心した。
船が目的地のNY港に到着する寸前、フェラントは一生懸命努力し、生まれ変わった自分になっているからと、半年後にエンパイア・ステート・ビルの最上階の展望台で会おう
とテリーに言う。
事実、今までの自分を棄て、懸命に仕事に励むフェラント。そして、半年後、彼はエンパイア・ビルの展望台でテリーを待つが・・・
エレガントでソフィスティケイトされたラブ・ロマンス映画の秀作。
起承転結がハッキリとした展開にして、正統派美男美女が演じる御伽噺。事実、展開の妙から見事なるエンディングまで、飽きることのないストーリィは、何度見直しても素晴らしいと感じる。
本作はレオ・マッケリー監督が1939年に「解逅(めぐりあい)」として発表し、時代性を加味し、洒落た大人の会話を多く取り入れ撮り直した作品。この後もウォーレン・ベイティ、アネット・ベニング夫妻が1994年に、本作と同名のタイトルでリメイクしている。しかし、それは完全にリメイクとして位置付けられる作品だが、他にもトム・ハンクスとメグ・ライアンの「めぐり逢えたら」(1993)など、インスパイアされた作品は、テレビ・ドラマからピンク映画までと実に数多く、多岐に渡る。
それほどパクられたことを考えても、いかに本作が良く出来た作品かが、うかがい知れよう。
主役二人も適役で、特にケーリー・グランドは上品でお洒落な伊達男として名を馳せていた。事実、タキシードから普段着まで、何でも着こなす二枚目だった。
個人的には往年のハリウッド・スターで「エレガントでお洒落」だと感じた俳優はグランドとフレッド・アステアだけである。その彼が世界的に有名なプレイボーイを演じる。正に、はまり役といえよう。
一方のデボラ・カーも知的で本当に美しい。他には外交官だった夫を亡くし、ひっそりと海を見下ろす屋敷に住むグランドの祖母役のキャスリーン・ネスビットも素晴しい。達観した気高さと寄る年波の孤独感が漂う。
ストーリィとしてはNY帰港後、この手の映画の定番であるすれ違いドラマになる。何だ、現実的なハナシじゃないのかと思う人もいるだろう。だが、その定番的な展開を見させ続ける監督の力量には注目するべきだろう。
前回の「我が道を往く」でも感じたが、決して奇を衒う演出をせず、実にスムースに流れる画面は素晴らしい。
そんな中、ただひとつ、お見事と膝を打ったシーンがある。それは二人が初めてキスをするシーンだ。何とキザな演出をするのかと感じ入った。普通は、お互いの顔を写し、抱き寄って唇を重ねるというのが定番だったが、本作では意表を突かれる。
本作はDVDがでている。しかも、敢えて手書き風の字幕で、かつ、古臭い言い回しを多用しているので、いかにも往年のハリウッドらしいラブ・ロマンスとして堪能できよう。
昨今は、等身大の、といえば聞こえは良いが、事実は醜い系の男女が織り成すリアルな恋愛映画が主流になったが、絶世の美男美女が紆余曲折のストーリィを繰り広げるからこそ、観客は夢見心地になれる。
特に、年代差はあろうが、多くの女性の映画ファンは、ラストで間違いなく号泣するだろう。事実、この映画を嫌いだと言う女性に会ったことがないし、自分も毎回ラストでは、涙を浮かべてしまう。それほどロマンティックな映画である。
そして、出来れば、本作はクリスマス当日に観ることをおススメする。あくまでもクリスマス・イヴでなく、クリスマス当日。何故か。それは本作を見れば納得いただけると思う。
それにしてもレオ・マッケリー監督は「我が道を往く」といい、本作といい、クリスマスを演出するのがつくづく上手いと感じ入る。