スタッフ
監督: リチャード・フライシャー
製作: カーター・デ・ヘヴン
脚本: アラン・シャープ
撮影: スヴィン・ニクヴィスト
音楽: ジェリー・ゴールドスミス
キャスト
ガームズ / ジョージ・C・スコット
リカルド / トニー・ムサンテ
クローディ / トリッシュ・ヴァン・デヴァー
モニク / コーリーン・デューハースト
ミゲル / アルド・サンブレル
白バイ警官 / アントニオ・タルエラ
ヒッチ・ハイカー / ロバート・コールビィ
殺し屋1 / パトリック・J・ズリカ
殺し屋2 / ロッキー・テイラー
日本公開: 1971年
製作国: アメリカ MGM作品
配給: MGM
あらすじとコメント
前回の「ハスラー」で強烈な印象を残したジョージ・C・スコット。彼の出演作は多いが、前回と同じく裏社会に生きる男を演じた、意外と知られていない作品にしてみた。
ポルトガルの港町アルブフェイラ。アメリカ人ガームズ(ジョージ・C・スコット)は、息子に死なれた後、妻に逃げられてひとり寂しく暮らしていた。彼のなぐさめは57年型BMW503のオープン・カーの手入れのみだった。
そんな彼にとある仕事の依頼が来る。脱獄する囚人を隣国スペインからフランスへ送り届けろというものだった。ガームズは今でこそ白髪まじりの疲れた中年男だが、かつてシカゴの裏社会で『逃がし屋』として名を馳せていたのだ。依頼を受けた彼は、指示通り脱獄囚のリカルド(トニー・ムサンテ)を拾った。彼は生意気な若僧で、ガームズが中年だと見るや、オマエで大丈夫なのかとバカにし、途中で自分の彼女を拾え、と予定変更を強要する。不本意ながらも車を走らすガームズ。
やがて、田舎町の安宿で彼の脱獄を待っていたクローディ(トリッシュ・ヴァン・デヴァー)をピック・アップする。そんな彼女はどこか孤独そうで、何故、あんな生意気な若僧とくっ付いているのかと不思議に感じるガームズ。だが、私情を挟まず仕事を遂行しようと無事、フランスへ二人を送り届けた。
しかし、待っていた男たちにリカルドの顔が変わった・・・
ひっそりと隠居していた男が人生の残り香を嗅ぐ作品。
アメリカでの裏社会の生活から足を洗い、稼いだ金でポルトガルの小さな港町で漁船を買い、漁師になろうとした男。だが、小さな息子に死なれ、妻はスイスへ豊胸手術に行ったまま行方不明になったきり。
時々、抱く娼婦からは魅力的だと言われるが、孤独に苛まれている。唯一、心許せるのは自分同様にくたびれているが、手を加え立派に再生したスポーツ・カーのみ。そんな中年男が、9年ぶりの仕事で徹底したプロの姿を見せる。
哀愁漂う、くたびれた男を演じるジョージ・C・スコットにシビレた。実に上手い役者だ。さり気ない日常生活では哀愁を感じさせるが、ひとたび仕事につくとヴェテランの余裕が漂う。
ストーリィは、中年男といかにも生意気だが腕は立つ若僧と、その愛人が絡んで、見慣れない寂れた田舎町や山間部という場所をひたすら車で走るロード・ムーヴィーの態を成していく。
カーチェイスや銃撃戦といった派手な場面と、彼らが隠れるように休む安宿や森といった静寂が際立つ場面とが強調される対比構成で進んでいき、やがて孤独な人間たちの間で、いつしか不思議な三角関係が出来上がっていく。
奇を衒う展開やスピーディなストーリィ展開ではなく、あくまで、どこかのんびりとして、鷹揚なリズムで進行するので、入り込めないと感じる人もいるだろう。何故なら、アメリカ映画だが、意図的にヨーロッパ映画的フィルム・ノワールの感覚を取り入れている違和感があるから。
それは、例えば、底冷えのする曇天を撮らせたら天下一品の北欧出身のスヴィン・ニクヴィストの撮影による西南ヨーロッパの晴天の異質感や、アメリカ映画ではあまり描かれないスペインやポルトガルの閑散とした場所で浮かび上がるアメリカ人中年男の厭世観と孤独感などである。
だが、そこにこそ世捨て人で諦念したかつて裏社会で名の通った中年男のリアル感をだそうとした意図が感じられる。
いささかストイシズムとセンチメンタリズムが鼻につくところもあり、当時、流行っていたアメリカン・ニュー・シネマ的な旅を続ける中での自己発見と、他人との「融合と拒絶」という視点も、強く印象付けられた。
ニュー・シネマというアメリカ映画の新しい波と、クールと切なさを伴い、既に確立されていたヨーロッパのフィルム・ノワールとの結合。そして同じ空間にいながら、決してお互いを理解し合おうとしない違和感しか残らない人間関係。それらを強調させるために選ばれた異国情緒溢れる場所への置換。こういったすべての設定が『融合と拒絶』を如実に物語っていると感じた。
独特の雰囲気と、敢えて一定のリズム感を崩すアンバランス感。スペインのアンダルシア地方の生活感漂う田舎町や潮の香りがするポルトガルの小さな港町という旅情感。まして、そこにセットと違う生活感がある。
やっと見つけてレンタルしたビデオを見直しながら、テレビなどで旅番組も多い現代に、何故か、自分もそこの場所をその時代に彼らと一緒に走っている感覚に陥った。いつしか冷静に客観視していたはずなのに、ふと気付くと哀愁漂う主人公の中年男に自分を投影していた。もしかしたら、それがフライシャー監督の意図だったのだろうか。
昨今、特にアメリカよりもヨーロッパを旅したいと傾倒する自分としては、妙に印象深い作品。