スタッフ
監督:西村潔
製作:山田順彦
脚本:石松愛弘、小寺朝
撮影:原一民
編集:黒岩義民
キャスト
松岡 / 高橋幸治
弓子 / 緑魔子
若い男 / 黒沢年男
マスター / 小栗一也
医者 / 若宮大祐
新婚の夫 / 江原達治
新婚の妻 / 田村奈己
陰気な男 / 草野大悟
若い女A / 木ノ内ゆみ
若い女B / 佐藤紀伊子
製作国: 日本 東宝映画
配給: 東宝
あらすじとコメント
和製ノワール。閉鎖空間内で繰り広げられる人間のエゴを描くハードな作品。それなりに上手くまとまっているが、そもそもの設定に問題がある作品。
神奈川 国道246号沿い
元レーサーで引退後は青山でカー・ショップを営む松岡(高橋幸治)と元モデルで人妻の弓子(緑魔子)は静岡川奈での情事を終え、松岡の車で東京に戻ろうとしていた。
情事の後のけだるいムードが二人を包み、夜道をひた走っていると警察が検問を敷いていた。カーラジオでも言っていたが警官連続射殺犯が近くに潜伏しているという。自分らには関係ないことだと言い残し、東京へと向かった。
途中ドライブインの看板が目に入り休憩をとることにした。中には初老のマスター、地元の常連の産婦人科医ら計8人の先客がいた。松岡らが注文を終えると新たに若い男(黒沢年男)が入ってきた。直後、制服警官が一応の職質と入ってきた瞬間、若い男は拳銃を出し警官に向け発砲。その場に倒れ込む警官。一同に緊迫感が走った。
そして、たった今恋人を殺してきた。あの女はここで浮気相手と落ち合うと言っていた。だから彼女同様そいつをぶっ殺しに来たんだ、と拳銃を皆に向けた・・・
閉鎖された空間で起きる緊迫した人間模様を描くノワール。
不倫中の男女。本作での一応の主人公カップルである。他にマスター、町医者、新婚旅行帰りの若い夫婦、遊び過ぎて金がなくなった若い女性の二人組、真面目そうなタクシー運転手、カウンターの薄暗い一番奥には陰気な男がマッチ棒を四角く井の字型に積み上げている。
そこに拳銃片手に乗り込んできた若い男。既に恋人を殺しているから怖いものなどないと息巻き、誰が浮気相手かを探し始める。
しかし、待ち合わせ時間より早く来すぎたのでその中には居ないと判明。ならば来るまで待つと言い出すが職質に来た警官を射殺。当然、騒然となるが店はすぐ警察に包囲され投降を呼び掛けてくる。
益々激高していく若い男と人質それぞれが勝手な思惑で逃げようとしたりするから、店内が恐怖の坩堝になっていく。
そんな中で病人が出たり、クールな主人公に対し特にキツく当たったり、新婚夫婦の絆を試すべく暴挙にでたりとやりたい放題になっていき人質たちの精神が崩壊していく。
成程それまで日本にはなかった設定。舞台かと思わせる密室劇であり、そうなると演者に期待がかかるが、それにしては全体的に弱い。
若い男役の黒沢年男はやり過ぎだし、ヒロインの緑魔子も元モデルには見えずらい。しかし「陰気な男」を演じた草野大悟は最高の儲け役だと感じた。他の俳優誰とも違う存在感を放ち、どちらかというと目立たない存在として描かれるので忘れがちだが、やはり実力の差を感じた。
作劇としてアンサンブル的演技合戦が難しいとなれば、後は密閉空間での恐怖感と焦燥感を暴走させるカメラワークと編集が重要になる。
その点は本作が監督昇進第一作の西村潔の演出は及第点以上である。中々の才気を感じさせるし捌き方も東宝らしいスマートさがあり、その上シャープさも併せ持つと感じた。
どうも監督は日本映画ではなくフランスのノワール映画やアメリカのB級クライム映画を目指したと痛感する展開とカット割り。
原作は菊村到によるものだが未読なのでどこまで忠実かは分からぬが、まるでそれこそ異国での設定だと感じた。
当時の日本人があれほど身勝手な個人主義的に行動できるのかや、若い男がどのように拳銃を入手できたのかとか、ラストの唐突さと解放された人間らの行動、最後の最後のシュールなオチに絶対に日本では起きえないと失笑してしまったのが残念。
ゆえに西村監督は敢えて日本らしからぬ展開とカッティング等に走ったのであろうと推察した。大らかに『無国籍ノワール映画』と思えば及第点を付けられる。