ポケットの中の握り拳 – I PUGNI IN TASCA(1965年)

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スタッフ
監督:マルコ・ベロッキオ
製作:エツィオ・パサドーレ
脚本:マルコ・ベロッキオ
撮影:アルベルト・マラッマ
音楽:エンニオ・モリコーネ

キャスト
アレッサンドロ / ルー・カステル
ジュリア / パオラ・ピタゴーラ
アウグスト / マリーノ・マゼ
母親 / リリアーナ・ジェラーチェ
レオーネ / ピエルルイジ・トローリオ
ルチア / ジャニー・マクネイル
ブルーナ / イレーネ・アニェッリ
トニーノ / ジャンニ・シッキ
医者 / アルフレード・フィリパッチ

日本公開: 1983年
製作国: イタリア ドーリア・チネマトグラフィカ作品
配給: カトル・ド・シネマ


あらすじとコメント

今回もイタリアのポー川流域の農村での話。ただし、あまりにもいびつでホラーとも非人道的とも取れる問題作。

イタリア、ピアチェンツア

郊外の農村にある一軒家。そこには長男アウグスト(マリーノ・マゼ゙)、長女ジュリア(パオラ・ピタゴーラ)、次男アレッサンドロ(ルー・カステル)、三男レオーネ(ピエルルイジ・トローリオ)と盲目の母(リリアーナ・ジェラーチェ)が一緒に住んでいる。

次男と長女は癇癪持ちで三男は発達障害、唯一ノーマルなのは長男のみで、彼には恋人がいたが、結婚したら家をでて街に住みたいと密かに願っていた。

家族が殆んど不具者ばかりなのを苦にしている次男は、唯一の健常者である兄に対する反発から家族を殺害していこうと決意する。

先ず免許取得に失敗したのに「免許が取れた」と嘘を付き、母親を車で連れだすと崖から突き落とし、続いて三男を風呂で溺死させ、今度は姉を窒息死させようと考え・・・

いびつな家族の中で精神的に異常をきたしていく家族らを描くドラマ。

静かな農村。そこに暮らす一家は、一般的に見てかなり違和感がある。

ヴァイタリティに溢れたり自己中心的、何とも個性的な人間が多く、どこか陽気でポジティブさが勝る印象がイタリア人だろう。

その中でこの家族はかなり気色悪い。先ず、何よりも回りの人々から見た「化け物屋敷」評を裏打ちする、絶望的孤独感が伝わってくるカメラワーク。そして陽気な太陽など一切照らないと思わせる寒々とした場所ピアチェンツァの光景が素晴らしい。

そこで描かれるのは湾曲した兄弟愛と嫉妬。あまりにも常識的観念とはかけ離れた人間ばかりなので、唯一正常な長男が却って異常に見えてくる恐怖。

次男の何処となく感じている孤独感と閉塞感が集積して行き、母殺しに行き着くまでの心情移行が、観る者の感情移入を拒否しつつ進行していく展開。

そして母殺しからは一気に他の兄弟殺しに移行していく恐怖感を意識付けしていくテクニックは、長編第1作の監督にしては大した力量である。

監督はマルコ・ヴェロッキオ。才人という印象で、取っ付きにくい作品を多く輩出している。本デヴュー作でも人間の狂気が徐々に積み重なって行く様を子供や善意の第三者を介しつつ肉付けしていく過程が、逆に人間の脆さを際立たせるのに成功していると感じさせ鳥肌が立った。

何せ監督は制作当時弱冠26歳であったのだから。

不愚者ゆえの葛藤をどこか突き放した視点で描きながら観る者を引き込んで行く。ただし、間違いなく評価が分かれる映画だと思う。

個人的には似たような作風のデヴィット・リンチよりは好きだと感じた。

常に突き放したような表現で押し通す家族への歪(いびつ)な感情。好むのは少数派かもしれぬが、小難しいヨーロッパ映画の中でもイタリア作品で挑戦するには好材料かもしれぬ問題作だと確信する。

ただし、かなりの覚悟が要求される作品ではある。

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