仲代達矢が死んだ。
92歳だったそうだ。今年春ごろまでは元気な姿を見せていたので、逆に、今でも元気だったのかと驚いた。
自分が認知したのは映画。黒澤明監督に起用されてクールでシャープな印象が似合ったり、成瀬己喜男作品では何とも温かみの影にヤラシさがある役など面白みのある若手だと思っていた。
大劇場でシェイクスピアなどの舞台も何作か鑑賞した。
ただし、若手育成のために「無名塾」を立ち上げてからのテレビや映画で見る彼の演技は完全に舞台用の大袈裟で目をむく派手なパフォーマンスが目立ち、嫌いになっていった。
映画はあくまで映画用の演技があると思っている。逆に、舞台での演技は隅々までわかるような演技と声量でないと迫力が出ない。しかし、それを映画にまで引用されると『やり過ぎ』感が出て鼻白む。
しかしカリスマとなり彼に憧れて俳優を志すと、どうしても自分の好きな映画用の演技が出来ない人が続出する。
昨今は劇場系出身者ばかりが目立つし、フィルムやテープと違いデータでの収録。嫌でもメイクの濃淡から皮膚質感等も見えやすいので、嫌な雰囲気まで見える印象すら与えてくる。
それも時代だと言えばそれまで。事実、映画においても晩年の黒澤明は仲代に「大袈裟すぎる」演技を要求し、それを極彩色で描いた。
個人的にはトータル感は分かるし、白黒映画で苦労し、初期のカラー・フィルムの色調は安っぽすぎると忌み嫌い、やっと想定内のカラーが撮れると思ったのだろう。
そしてヨーロッパ系の画家が描いた絵画を動く画像として製作したような作品として完成させた。
だが、個人的にはそこが到達点かと相容れなかった。
年齢を重ねれば価値観も変わるし、機材等も劇的に変化していく。
ゆえに黒澤も仲代も進歩したのだろう。仲代が主宰した無名塾は確かに多くの俳優を輩出した。出身者で何名かは好きな役者もいる。
その中で、滝藤賢一は演技も顔つきまでも仲代達矢に似てきたと感じる。
他にもよく見る顔もいる。それほど貢献しているということ。
実績は間違いなくある。やはり、キチンと冥福を祈ろう。


