チクショー、言い得て妙でやんの。
もう40年も通うカウンターだけの下町酒場。現在の主は三代目の娘さん。とはいっても、もう還暦に近いのだが。
元々は上場企業の社員だったが二代目の父親が急逝し、母ひとりだけになったので仕事を辞し手伝うようになった。
当初は「門前の小僧、習わぬ経を読む」的存在で静かだったが、現在は独りの切り盛りで随分と存在感が増している。
それでも今の時代に、それこそ1000円で呑もうと思えば可能な心強い店。ただし客層は変化し、昔は近隣が下町の町工場地帯だったので職工さんばかり。
しかし今は中途半端な開発でそこそこのマンションばかりが目立つようになり、そこいらの居住者が多いとか。
更にTVや雑誌で紹介され、今では初見のくせに酒場評論家の意見を鵜呑みにしてるようなタイプもいてねと苦笑する。
それによりメニューも一部変えざるを得ないと嘆いた。つまり、たまには昔を懐かしむメニューが食べたいと言っても、アンタ以外に誰も食べないよと笑う。
折角、店が用意しても廃棄処分になる。誰かの影響で「店は煮込みとポテサラで決まる」を判断基準にする人も多いんだと。
他人の意見や潮流に乗れなく、昔の良い思い出にすがる自分。まあ、考えれば嬉しい疎外感かもね。
ある意味、嬉しくて今も通い続ける店。先立て、口開けで誰もいない時間帯に、あれやこれやとご両親の話から互いの話になった。
その時に彼女に言われた言葉。「アンタって、キリギリスの成れの果て」ね。
イソップ寓話の「アリとキリギリス」だよな。でもさ、当時の自分とは一度も会ってないし、お母さんからの情報のみのくせに。
それでも何だか言い得て妙でやんの。やはり、それらしい落ちぶれ感と、かつては羽振り良かったんだぞ的双方の雰囲気を醸しているということかね。
四季が変調をきたした今秋。しかしその所為でもなかろうが、近隣でも、いつになく紅葉が見事で驚く。
赤くなったのは葉っぱのみならず、てか。まあ、こちらが赤いのは酒の酔いか、過去の自分の思い出からか。北風も沁みるし、夕暮れも早い帰路。
それでも、やはりその酒場は大好きなままだ。


