スタッフ
監督:ルーベン・マームリアン
製作:アーサー・フリード
脚本:レナート・ガーシュ、レナート・スピーゲルガス
撮影:ロバート・ブロナー
音楽:アンドレ・プレヴィン
キャスト
スティーヴ / フレッド・アステア
ニノチカ / シド・チャリス
ペギー / ジャニス・ペイジ
ブランコフ / ピーター・ローレ
マルコヴィッチ / ジョージ・トビアス
ビビンスキー / ジュールス・マンシン
イワノフ / ジョセフ・バロフ
ポロフ / ウィム・ゾンネフェルト
ガブリエル / バリー・チェイス
日本公開: 1958年
製作国: アメリカ A・フリード・プロ作品
配給: 大映
あらすじとコメント
引き続きフレッド・アステア&シド・チャリスのコンビ作。当時、流行りだしたワイド・スクリーンのミュージカル。
フランス、パリ。ソヴィエトの作曲家ポロフは、ソ連の音楽芸術を広めるために派遣されていたが、自由主義社会の素晴らしさを甘受していた。それに目をつけたハリウッドのプロデューサー、スティーヴ(フレッド・アステア)は、自分の次回作のために、彼に音楽監督をさせようと画策していた。帰国期限が迫っている彼に、君はフランス人とのハーフだし、ビザの問題はないので、もう少しパリにいろと吹き込んでいた。ついでに彼を篭絡させようとハリウッドから主演女優としてペギー(ジャニス・ペイジ)を呼び寄せた。
一方、ポロフの態度に疑問を抱いたソ連政府は彼を連れ戻すべくブランコフ(ピーター・ローレ)、ビビンスキー(ジュ-ルス・マンシン)、イワノフ(ジョセフ・ボロフ)をパリへ派遣させた。しかし、三人はいとも簡単にスティーヴに懐柔され、共産党員にあるまじきかな、超高級ホテルのスィート・ルームに宿泊させられ、パリの魅力の虜になってしまう。焦ったソ連政府は、新たにバリバリの共産党員でエリートのニノチカ(シド・チャリス)を派遣した。
今度も簡単に飼いならせるだろうと考えていたスティーヴは、突如、現れた相手が美人だと知って・・・
共産主義を皮肉ったブロードウェイのヒット作を映画化したミュージカル。
アステアが最後に輝いたミ ュージカル作品でもある。このとき彼は56歳だ。確かにダンス・シーンでも往年の切れはない。しかし、それでも見事なダンスを見せてくれる。
彼の変わりに、といっては失礼だが、断然光っているのがシド・チャリス。ここ4回ほど連続してMGMのミュージカルを扱ってきたが、その全作に出演している。何てことはない、個人的に一番好きなミュージカル女優だからなのだが。
本当にこの映画での彼女は素晴らしい。いかにもガチガチの共産主義者として登場し、女性ながら戦車隊の隊長まで勤め上げたエリートでロシア訛りの英語を話す。近付き難いクール・ビューティという存在。恋人たちの街パリに来て、退廃の極みと冷たく吐き捨て、恋愛は化学的反応であるとわが国では立証されている、などと平然と言ってのける。確かにそれぐらいの存在でないと、以後の展開が面白くない。
そんな彼女が恋を知り、感化され、絹の靴下を履いてデートに向かう。このシーンで今までの地味で質素な服を脱ぎ捨て、下着姿となり、踊りながら着替えをしていくダンス・ナンバーはこの映画の白眉。バレリーナ出身らしく華麗な舞を見せながら、完全にストリップを意識させる流れ。最初の方で、屈強な男たちとダイナミックだが、しなやかさを感じさせるパワフルなナンバーを見せられているから、その差に呆然とする。
当時の映画としてはかなりエロティックで刺激的だが、息をのむほど美しい。そして、その後のドレス姿の目を見張るほどの美しさ。その変貌振りが映画の印象を大きく変える。
ただ、残念なことにストーリィ自体はあっちに行ったり、こっちに来たりとまとまりがない。まあ、こういった作品に物語の整合性やリアリティを望むのは的外れという感じもするのだが。
他に本作で触れておきたいのは、先に派遣されて自由主義に感化されてしまう3人組のひとりを演じるピーター・ローレ。サイレント映画の傑作「M」(1930)から活躍している個性派俳優。背丈が異様に低く、ギョロ目でとっちゃん坊やという印象。
ハードボイルド映画の秀作「マルタの鷹」(1941)や、映画史上の超有名作「カサブランカ」(1942)などから、「海底2万哩」(1954)、B級の雄ロジャー・コーマンの「忍者と悪女」(1963)など、様々なジャンルの映画で、いつも同じような気の弱そうな役回りで出演している。
しかもその彼が本作では、コサック・ダンスまがいの踊りまで見せる。どこか、手塚アニメのキャラクター的な印象で笑わせてくれる。
また、当時流行だったロックやチャチャチャといった新しい音楽を取り入れてダンスにしたり、映画自体がワイド・スクリーンになり、立体音響(ステレオ)になっていることを皮肉った楽しいナンバーなど、アメリカの風俗をも対比させ笑いにしている。
以後、実際にミュージカル映画はアステアやジーン・ケリーといった個人芸の世界から「ウエスト・サイド物語」(1961)のようなブロードウェイ発で、かつロケを取り入れた集団群舞によるものへと変貌していく。
確かに唄い踊るアステアは、本作が「最後の輝き」のような気がしている。ハッピーエンドなのだが、どこか哀愁を感じる作品でもある。