スタッフ
監督: アンソニー・アスキス
製作: アナトール・デ・グランウェルド
脚本: テレンス・ラティガン
撮影: ジャック・ヒルデヤード
音楽: ミクロス・ローザ
キャスト
フランセス / エリザベス・テーラー
アンドロス / リチャード・バートン
シャンセル / ルイ・ジュールダン
グロリア / エルザ・マルティネッリ
マングラム / ロッド・テーラー
ミス・ミード / マギー・スミス
ブーダ / オーソン・ウェルズ
ブライトン婦人 / マーガレット・ラザフォード
ジョスリン / ロナルド・フレイザー
日本公開: 1963年
製作国: アメリカ MGM作品
配給: MGM
あらすじとコメント
リチャード・バートン主演で『グランド・ホテル形式』のドラマ。今回は派手なシーンは登場せず、じっくりと見せる人間模様。
イギリス、ロンドン国際空港。ある冬の朝、空港は渡航客や送迎者などでごった返していた。
そんな中、ニューヨーク行の旅客機に搭乗するため映画界の大物プロデューサー、ブーダ(オーソン・ウェルズ)が、愛人の女優グロリア(エルザ・マルティネッリ)を連れてやって来た。彼の今回の渡航目的は税金逃れである。彼らは、すぐにファースト・クラス搭乗者専用のビップ・ラウンジに通された。
その後も、ラウンジには、トラクター会社を単身起業し、巨万の富を得たアメリカの風雲児マングラム(ロッド・テイラー)が、コングロマリットに自社が買収される危機を孕んでいるので、急遽、帰国しようと空港に掛け付けてきた。
更に、自家用ヘリコプターでイギリス経済界の大物アンドロス(リチャード・バートン)が、ジャマイカ旅行に行く妻フランセス(エリザベス・テーラー)を見送りにやって来た。彼は会議のために取って返したが、実はフランセスはアンドロスと離婚し、NYで新生活を始めようと、若い愛人シャンセル(ルイ・ジュールダン)を密かに空港に呼んでいた。
それぞれが問題を抱えながら、搭乗を待っていたが、ロンドン特有の霧が発生し、出発が遅れるとのアナウンスが流れて・・・
映画史上に残る「グランド・ホテル」の現代風リメイク。
オリジナルはベルリンのホテルに参集する人間たちの一晩の出来事を描いたが、今回は時代性を加味して空港に設定した。
ホテルで言えば、スイート・ルームに匹敵する『ビップ・ラウンジ』がメインの舞台である。登場するのも仕事が命の亭主に愛想を尽かし、若いツバメと逃避行しようとするワガママな上流婦人や、アメリカン・ドリームの体現者が抱える難題を仕事上の立場以上で心配する彼の秘書など様々。更に、税金逃れのため、何としても今日中に出発したい映画界の大御所や亡夫が残した広大な邸宅を持て余し気味の公爵夫人がいる。
キャストは豪華であり、実力派揃い。しかも、主役のテーラーとバートンが結婚したばかりで、実生活を彷彿とさせているのでは、と話題になった。
しかし、映画としては成功しているとは言いがたい部分も多い。ロンドンが舞台なだけに、重厚な演出を心がけたイギリス人のアンソニー・アスキスが、ヴェテラン監督なのに俳優たちに気を使い過ぎている点が鼻に付くから。
確かに俳優たちも重厚な演技で押して来るし、まるで舞台劇のような人間ドラマが凝縮されている。しかし、空港という中途半端な広さを充分に扱ったとは言い難いし、一般人からすれば、金持ちたちの身勝手なドラマに感情移入しづらい設定ゆえだろう。
ただ、世俗に疎い老公爵夫人を演じたヴェテラン女優マーガレット・ラザフォードの存在感が圧倒的に面白い。唯一のコメディ・リリーフとして、重厚なる人間ドラマの緩衝材の役目を果たしている。
この役はオリジナルである「グランド・ホテル」にはオーバー・ラップする役柄はない。本作が生みだした新たなるキャラクターである。
しかし、この老婦人の設定は、後に同じようなイメージで再度登場する映画がある。それは「大空港」(1970)である。
製作年度を考えても「大空港」は、本作のリメイク的要素が色濃く感じられるし、そこに大掛かりなパニックを加味した作品だと位置付けしている。
映画を体系的に捉えようとした場合、なるほど、先の映画を見ていると『流れ』が感じ取れる好対象的な作品。