スタッフ
監督:アンソニー・マン
製作:ウィリアム・パールバーグ、ジョージ・シートン
脚本:ダドリー・ニコルズ
撮影:ローヤル・グリッグス
音楽:エルマー・バーンスタイン
キャスト
ヒックマン / ヘンリー・フォンダ
オーエンス / アンソニー・パーキンス
ノナ / ベツィー・パルマー
キップ / マイケル・レイ
ボガーダス / ネヴィル・ブランド
マッコード医師 / ジョン・マッキンタイア
ミリー / メリー・ウェブスター
ヘンダーソン / リチャード・シャノン
マクガフィー / リー・ヴァン・クリーフ
日本公開: 1957年
製作国: アメリカ パールバーグ・シートン・プロ作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
前回の「荒野の決闘」(1946)で名優ぶりを見せつけたヘンリー・フォンダ主演の西部劇で繋げた。初老の流れ者が、若い保安官を一人前に成長させる地味ながら忘れ難い秀作。
アメリカ、西部とある町に一ヶ月も髭を剃ってない薄汚れたヒックマン(ヘンリー・フォンダ)が、馬の背に死体を載せてやって来た。見知らぬ男に驚く住人たち。
彼は、無言のまま保安官事務所に行くと、若き新任保安官オーエンス(アンソニー・パーキンス)に、自分は『賞金稼ぎ』で指名手配犯を射殺して連行してきたので賞金をくれと言った。手続きに一日はかかると言うので、ヒックマンは町に滞在しようとする。
ところが、静かな町に死体連れでやって来た突然の来訪者に、嫌悪感を露わにする住人たち。しかも、その死体は、町の暴れ者ボガーダス(ネヴィル・ブランド)の親戚だったことから・・・
図らずも、正義感に溢れる若者を成長させる孤独な男を描く秀作。
正統な商売である『賞金稼ぎ』。しかし、人間を殺して利益を得ることに嫌悪感を持つ人間が多いのも事実。
それでも、自分に自信を持ち、平然としていられるのは、過去に何か強烈な出来事があったからだろう。
方や、射殺された前保安官の娘を恋人に持つ、正義感溢れる若者。
しかし、彼には経験値が完全に不足している。そして、メキシコ系の少年と暮らす独り身の美女。メインは、その三人だ。
ストーリィは解りやすく、実力と経験値がある主人公が、若き保安官を成長させていく内容。
意外性のある展開や奇を衒った演出はなく、シンプルに進行していく西部劇である。
ある意味、「シェーン」(1953)のような、定住先を持たない孤独な男と正義感があるが弱い人間たちとの係わり合いを描く、ありがちな設定ではある。
しかし、冒頭場面で、保安官事務所に入ってきた主人公を手前に写し、窓越しで外側の驚く住人たちにもカメラのピントが合っている「パン・フォーカス」撮影やら、少ない台詞で、人物たちの過去の背景を浮かび上がらせ、それぞれの孤独感や焦燥感を見事に際立たせる演技など、その世界に引き込まれていく。
決して出しゃばらず、常に一歩引いて「傍観者」として立ち振る舞う主役を演じるフォンダのヤラシイほど上手い演技。酸いも甘いも噛み分けてきた風情だが、威圧感もある。何よりも、いざとなったときは、無駄な動きをせず、冷静沈着に事態を収拾する。
その実力を見たパーキンスならずとも、惹かれる。
そして、周囲の大人たちの身勝手さと日和見主義。対照的に描かれるのがメキシコ系少年だ。
こういった解りやすい対象を描きながら、派手なアクション・シーンもなく、実に、さりげないが見事な演出で綴るアンソニー・マンの手腕。一時間半という時間が極上に感じる秀作。
本作とは関係ない話題にはなるが、多少、映画パンフレットに関して書いてみたい。
今回の写真は、本作初公開時の東京封切館で販売されたパンフレット表紙集である。
昔は、わら半紙に印刷された、二つ折りか、三つ折りの印刷物が、来場者に『鑑賞の手引き』として無料で配られたのがパンフレットの走り。
戦後、東京では洋画封切館が続々と誕生し、「銀座」「渋谷」「新宿」に集中していった。当然、入場料も高く、どの町にもあった名画座的映画館とは一線を画するため、有料パンフレットを発売するようになった。
特に銀座周辺に集中していた大劇場系では劇場の豪華さや規模、『70ミリ』や『シネラマ』といった大スクリーンさを競ったりした。当然、豪華で高額なパンフレットに館名を印刷し販売した。
その劇場で見たことが観客のステータスであるかのように。ゆえに、パンフレット収集家は、劇場名入りのパンフレットにこだわった。
また、本作のように同時期に同じ映画を公開するが、その地区の封切り劇場としてのプライドがあり、解説や概要、トピックスなどの内容は、ほぼ同じであるが、表紙を変えた類もある。
今見れば、どの表紙も大して内容を上手く表しているとは思えないが、それでも、こうやって並べてみると面白いと感じるのは、収集家としての自己満足だろうが。
現在では、表紙に劇場名を入れるのは経費が掛かるし、ならば、配給会社なりが、一種類だけパンフレットを作れば、日本中の映画館なり、シネコンでの販売が可能で合理的。
どうにも、コレクターとしては冬の時代だ。それでも、何か「映画」と関わっていたい。だから、このメルマガをはじめる切っ掛けにもなったのだが。
そして、ここにきて悲しいニュースが飛び込んた。今年一杯で、新宿歌舞伎町にある最後の大型映画館『新宿ミラノ座』が閉館するのだ。
パンフレットはおろか、映画館自体が終焉を迎える。今回の写真にアップしてある一冊も『新宿ミラノ座』という館名が入っている。これも、何かの縁というには、余りにも寂しすぎるが。