スタッフ
監督:ルイ・マル
製作:クロード・ネジャール
脚本:ルイ・マル、パトリック・モディアーノ
撮影:トニーノ・デッリ・コーリ
音楽:ジャンゴ・ラインハルト
キャスト
ルシアン / ピエール・ブレーズ
フランス / オーロール・クレマン
ホーン / オルガ・ローウェンアドラー
ベッラ / テレーゼ・ギーゼ
ジャン・ベルナルド / ステファーヌ・ブーヌ
ベティ / ルム・イヤコベスコ
フール / ルネ・ブロック
アルバート / ピエール・デカディス
ルシアンの母 / ジルヴェール・リヴェー
日本公開: 1975年
製作国: 仏、伊、西独 NEF-UPF作品
配給: 20世紀フォックス
あらすじとコメント
ただでさへ不安定な青年の心情。そんな時期に戦争の影が落ちる。前回は徴兵されるかもしれない中での燃え上がる恋愛を描く作品だった。今回は、まさに戦争下での青年の生き様を描くフランス映画。
フランス、南西部フィジアック1944年6月、連合軍がノルマンディに上陸した頃。
17歳のルシアン(ピエール・ブレーズ)は、病院の下働きとして、そこに泊まり込んで生活をしていた。大したことも出来ず、空虚な日常。そんな彼は農家のひとり息子で、父親はドイツの捕虜収容所に送られていた。
暫く振りに帰宅すると、何と母親は寂しさから別な男と同居していた。しかも、家を他人に貸し、ルシアンの居場所がなくなっていた。複雑な心境に陥るのは当然のこと。
やるせない気持ちのまま、深夜、病院に戻ろうとしていると、とある屋敷で宴が繰り広げられていた。吸いこまれるように入っていくと、突然、誰だお前は、スパイかと首根っこを掴まれて・・・
真面目だが、世間知らずの青年が戦時下で辿る運命を描くドラマ。
いよいよ戦争も終盤という頃だが、社会情勢がどのように激変しているかも知らず、久し振りに家に帰ると状況が一変していてショックを受ける。いつの間にか、病院でも家でも自分の立ち位置がないと。
そんな彼は、不意にレジスタンス活動に参加しようと考える。別に深い意味はない模様ながら。だが、そんなに簡単じゃないとレジスタンス幹部の元担任に断られる。
益々、自分の存在価値を見失う主人公。そして勤務先に戻る夜、偶然、明るい建物に吸い込まれるように入り込んだのがドイツ軍に加担する傀儡政権側の警察署。
訝しがられながらも、大人たちは自らの立場が危うくなっていることを知っていて、簡単に彼を仲間に引き入れる。
この展開が興味深い。歴史的事実をみても、やがて反逆者として対処される側に付き、それでも自分の必要性が認められたと、深く考えもせずに知人たちの情報を売り、一丁前の男になったと自惚れる。
否や、自惚れではなく、純朴さゆえのストレートな行動なのだ。
当然、観ているこちらは複雑な心境に陥っていく。彼にとっては、自分が一個人として認知して貰え、最年少ゆえに見下されながらも、仲間意識を持って接してくれる大人たちには、何ら疑問を持たない。
世間知らずだが、大人として認知されたい、田舎の少年。
そんな主人公が初恋をする。しかも、相手はユダヤ娘だ。彼には想像も付かない差別が横たわっているが、少年には関係ないこと。
何とも、将来性のない状況に、淡々と突き進んでいく進行。なまじ、少年が純朴ゆえに、どうにも背筋がかゆくなる展開。
どこか突き放したような視点で描いていくルイ・マル演出。
何よりも『動物の死』が幾度も描写されていく進行に、マルのシニカルさという個性が際立ち、嫌な感覚が喚起させられる。
冒頭、パチンコで囀る小鳥を打ち抜き、銃の腕を確認するために、何発か外しながらも、「もぐら叩き」ゲームのようにウサギを猟銃で撃ち殺していく。
更に、生きるために食料が必要で、屠殺なり、狩猟をしていく。
要は、主人公の少年にとって、自分らが生きるためには、か弱い動物たちは生きていくための『糧』であり、他の生物よりも優越性を持つ人間本来の生存欲求なのである。
学校で教養もロクに身に付けず成長した者には、ごく当たり前のことであり、一々、生命体としての感情移入はない。
それも純朴さゆえだ。何も知らぬまま、大人として認知されたい欲求が、結果、どのように作用するのか。
ドラマティックに進行させない技法にルイ・マル監督の気質が感じられる青春残酷物語である。