スタッフ
監督:マイケル・アンダーソン
製作:ハーバート・ウィルコックス
脚本:エリック・アンブラー
撮影:ゴードン・ダインズ
音楽:レイトン・リューカス
キャスト
ケランズ少佐 / リチャード・トッド
フランク伍長 / ウィリアム・ハートネル
ベン大佐 / エイキム・タミロフ
ウェストン大尉 / ドナルド・ハウストン
クォ・タイ大尉 / ケイ・ルーク
シャーロッテ / ソフィー・スチュワート
ファーンレイ大尉 / ロバート・アークハート
ストレイン大尉 / リチャード・リーチ
バーガー大尉 / マイケル・ブリル
日本公開: 1957年
製作国: イギリス H・ウィルコックス・プロ作品
配給: 東和
あらすじとコメント
「砲艦サンパブロ」(1966)同様、西洋列強国の艦船が中国揚子江でトラブルに巻き込まれる。『揚子江事件』と呼ばれる実話を基にした、いかにもイギリスらしい地味系作品。
中国、南京1949年4月、中国国内で内乱が激化し、国民政府の首都である南京に共産党軍が猛攻をかけていた。イギリス政府は、南京にある大使館への物資補給と在留イギリス人の保護を目的とし、既に駆逐艦一艘を派遣させていた。
更に、当該駆逐艦サポートのため、中立国海軍として国際法に従い、且つ、国民政府の許諾を受けた上でフリゲート艦アミシスト号を、上海から南京へ向けて揚子江を遡らせていた。
航程も半ばを過ぎたとき、突如、北岸の共産党軍の砲台から一斉砲撃を受けた。想定外の出来事に艦長は反撃しつつの脱出を命じたが、直後、操舵室と艦橋に被弾し、浅瀬に座礁してしまう。だが、撃沈までは出来ぬと判断した共産軍は砲撃を中止。
死傷者は艦長を含め54人。一報を聞いたイギリス政府は、ただちにケランズ少佐を(リチャード・トッド)をアミシスト号に派遣した・・・
中国で起きた実話を手堅く描く作品。
第二次大戦後に中国国内で起きた「第二次国共内戦」で、内乱状態も終盤へ突入していた時期。
結果は、蒋介石率いる国民政府が台湾へ退き、本作で突然、砲撃を加えてきた共産党の勝利で終わる。
本作制作時は東西冷戦の時代。然るして、共産党軍は狡猾で嫌な悪役として描かれる。
要は、共産軍が自分たちの正当性を世界に承認させるべく、わざと政治利用しようとする前提。
水上機による医師の派遣や、駆逐艦による救援に対しても戦闘目的と見なし、容赦なく砲撃を加える。
暑さも増していく時期。当然、孤立無援化している負傷者たちは更に悪化し、食料や医薬品も不足していく。
そんな中、イギリス政府から全権委任された主人公は3ヶ月に渡り、粘り強く交渉を続けていく。
そういった事実を淡々と描く進行。監督は、爆弾を水上バウンドさせて、壁面直前で沈下させダム爆破を決行する佳作「暁の出撃」(1955)のマイケル・アンダーソン。
彼は当時、まだ新進気鋭の部類であったが、本作の直前70ミリの大作「80日間世界一周」(1956)を手掛けている。それだけ実力が認知されていた監督である。
ただし、本作は史実を忠実に再現しているので、「アミシスト号」から、駆逐艦、果ては小型艦艇まで、すべて本物が使用されているが、邦題からも解るように、被弾座礁からの脱出がメイン。
ゆえにイギリス側の派手な応戦や、意表を突く脱出のアイディアはない。主人公と共産党との交渉や、乗組員たちの疲弊具合の加速が描かれていく。しかも、それをいかにも正攻法のドキュメンタリー・タッチで押して来るのだ。
当然、観客側のカタルシスが昇華することもない。そのあたりが、イギリス人以外は物足りなさを感じるものも事実だろう。
出演陣も「暁の出撃」からコンビ続投のリチャード・トッド、かなり無理して共産軍の指令官を演じたギリシャ人俳優エイキム・タミロフ以外、日本には馴染みのない出演者ばかり。だが、いかにもイギリスの俳優らしくどの役も、さもありなん、という印象。
メリハリや編集のリズム感にも問題アリだが、それでも往年のイギリス映画らしい手堅い作品ではある。