スタッフ
監督:山田洋次
製作:脇田茂
脚本:山田洋次、森崎東
撮影:高羽哲夫
音楽:木下忠司
キャスト
伴源五郎 / ハナ肇
風見愛子 / 倍賞千恵子
早乙女良吉 / 有島一郎
早乙女絹子 / 中北千枝子
隣の奥さん / 久里千春
早乙女房子 / 真山知子
伊達一郎 / 山口崇
林局長 / 松村達雄
吉川課長補佐 / 市村俊幸
刑事 / 高原駿雄
製作国: 日本 松竹
配給: 松竹
あらすじとコメント
監督山田洋次。「男はつらいよ」シリーズが有名だろうか。その監督がシリーズ以前に発表した、完全に寅さんに通じるキャラクターを登場させた人情喜劇。類似点が多いが主演が違うと、こうも印象が異なるのかと感じさせる。
神奈川、茅ケ崎衛生局防疫課に勤める課長補佐早乙女(有島一郎)は、持病の悪化で早退した。帰路の電車内で酔っ払った労務者の伴(ハナ肇)に絡まれ閉口するが何とか切り抜けた。
数日後、同僚の転勤で深酒し終電の駅でタクシーを待っていたら伴と再会。知らぬ顔をしようとするが、酔っていた所為もあり、結局二人で飲み直し伴を自宅まで連れてきて・・・
粗野な男としがない官吏に薄幸の少女が絡む人情喜劇。
鎌倉よりは高級なイメージがない湘南地域の一軒家に住む小役人一家。やはり小津安二郎や成瀬己喜男的階級感がないところに山田洋次の特徴があるといえようか。
家の主は出世が見込めぬ真面目な中年男。見るからに神経が細そうで、持病も神経性由来に思える。
そこに粗野で直情型で不器用と三拍子揃った流れの労働者が絡んでくる。妻と娘は完全に迷惑顔だし、隣家の噂好きな主婦も他人事だしとちょっかいを出してくる。
そして主人公が助けた自殺を図った娘までが居候兼女中的に住むようになる。
ただし、主人公は一家に居座るわけではなく、時々ふらりと舞い戻ってくるタイプ。そして娘に好意を寄せるが、ふとした間違いから暴行犯として逮捕され話がややこしくなる。
こう書いてくると主人公は「フーテンの寅」に完全に重なる。知的レベルは高くなく愚直。対女性は当然として、スマートに人間付き合いが出来ない。
役名も興味深く、「男はつらいよ」では『車寅次郎』で、本作は『伴源五郎』。名字が一文字で名前に数字が入る。
常識的な正論を吐くが、威嚇的というか、威圧的で他人に接するから誤解を受けやすい。これも寅さんに重なる。
他方、寅さんシリーズと異なるのは小役人の中年男の存在。迷惑で始まるが主人公の人間的魅力を感じ味方になる。しかし、気弱でうだつが上がらぬタイプゆえ会社や家族からは蚊帳の外扱い。
自分では全く感じない主人公と、自身の立場を知った中年に共通するのは「疎外感」。一方で中年男の家族や上司は、どこか『中流以上』と思い込んでいるフシがある。つまり主人公の男二人は、どうしても相容れないタイプの人種という描き方。
そんな人間らが登場し悲喜劇として描かれていくのだが、どうにも山田監督は人間嫌いという印象を強く感じた。
内容や進行は、寅さんシリーズに継承されていくのだが、渥美清とハナ肇という個性のまったく異なる俳優によって、同じような性格設定ながら複雑な心境に陥らせる。
ただし、小役人を演じる有島一郎が絶品。しかし本作では(東宝)と記されていて他社からの『借物役者』扱い。だからか、他の松竹常連俳優らとは明らかに違う演技アプローチである。
逆にそれが絶妙な差異とアンサンブル双方を醸しだしていると感じた。しかも、その妻役が成瀬己喜男作品の大常連中北千枝子だから、益々、微笑んだ。
いかにもの松竹大船調の山田節なのだが、どこか異なるティストながら、絶妙にブレンドされた安ウィスキーの味わいがある。
それにしてもラストはほっこりと涙を浮かべさせるから捨て難い作品と思わせる。まさしく人情悲喜劇である。