ル・バル – LE BAL(1984年)

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スタッフ
監督:エットーレ・スコラ
製作:ジョルジョ・シルヴァーニ
脚本:R・マッカリ、F・スカルペリ、J・C・パンシュナ、E・スコラ
撮影:リカルド・アロノヴィッチ
音楽:ウラディミール・コスマ

キャスト
/ ジュヌヴィエーヴ・レイ・パンシュナ
/ レジ・ブーケ
/ マルティーヌ・ショーヴァン
/ アニタ・ピッカリーニ
/ レイモンデ・エデリーン
/ リリアンヌ・デリヴァル
/ エティエンヌ・ギシャール
/ ナニ・ノエル

日本公開: 1985年
製作国: 伊、仏、アルジェリア マッシ・フィルム他 作品
配給: ワーナー


あらすじとコメント

イタリアの名匠エットーレ・スコラ監督で続ける。今回は一切、台詞がない異色のダンス・ドラマで、世相の移り変わりを綴る意欲作。

フランス・パリ

1936年、投票による初めての社会主義政権が誕生した年。下町のとあるダンスホールに夜な夜な男女が集ってくる。労働者やお針子といった決して裕福ではない人々ばかりで、誰もが相手を探している。

時は移ろい、第二次大戦が始まると店にも暗いムードが漂い、やがてドイツ軍に占領されるに至り、店はドイツ将校や内通者が跋扈し、残っているのは戦場に狩りだされなかった女性ばかりで男性は消えていた。そんな時に流れるのは「リリー・マルレーン」。

そして戦争が終わると自由と活気が戻るが、そこにはアメリカの影響が強く感じられるようになり・・・

ダンスホールの半世紀の歴史を綴る舞踊音楽劇。

パリの下町のダンスホール。映画は制作当時の1980年代後半から始まる。

先ずは様々な女性たちが単独でやって来て、一様に大鏡の前で身だしなみを繕い、小さなテーブル席に涼しい顔で坐る。そして今度は御一人様オンパレードの男性たちが登場し、全員が素知らぬ顔で互いを値踏みしながら相手を探し、運良くマッチングできると中央のフロアにでてダンスを始める。

踊る何組かを映しながらカメラは移動し、カウンターの大きなエスプレッソ・マシーンを扱う老バーテンダー越しに蒸気が立ち込め、一気に半世紀前の1936年へとシフトする展開。

その後は再度、現在に戻るまでを年代別に変わる流行歌やファッションによって時の移ろいが描かれていく。

全時代を同じ演者が様々な役を演じ分け、一切の台詞も発せず、パントマイム的な動きのみで各々の人間性を際立たせていく。

「望郷」(1937)のジャン・ギャバンそっくりなギャングが冷やかしで遊びに来た上流階級の美人を一瞬にして篭絡したり、戦争前夜ではユダヤ人女性とバーテンダーの淡い恋模様、そしてドイツ占領下では女性同士が仕方なく一緒に踊るが、ささいなことで喧嘩になるという世情的不安定さをも描いていく。

戦後は一挙にアメリカの影響が入り、ジャズとコカ・コーラの洗礼、そして50年代は遥かなる南米発信の「ラテン音楽」が陽気に流行り、踊り方も変化していく。

その後は不良青年たちの暴走を含むロックへと流れ、最終的にはディスコ音楽へという半世紀に及ぶホールの歴史を一切、外へ出ることなく、当時の世相なりを見事に描いていく。

台詞がないので画面に集中できるし、演者たちもミュージカル作品とは違い、突然歌いだすという違和感はない。それでも中にはいつの時代も同じような動きをする人間や、微妙に存在感を変えてくるタイプと、出演陣による各年代での演じ分けなども興味深い。各時代が移ろう時も蒸気スチームだったり、白黒写真だったりと映画的技法にも留意している。

このエットーレ・スコラ監督は限られた空間なり、シチュエーションの中で蠢く人間たちを描くのが得意である。しかも大河ドラマ的に何十年に渡る『都度の移ろい』を変化を付け描いていく。

本作などその最右翼であろう。映画は映像で見せるものであり、会話は身振り手振りと顔の表情ですべてを伝え、そして何よりも『踊り』で関係性を描き分ける。出演陣もそれぞれが個性的であり、この役者は、次の時代ではどんな役柄で登板していくのかという興味もそそられる。

音楽とダンスの変遷の中で変わらない人間の営み。いつの間にか酔っているという、どこかクセがなさそうで、後からガツンと来る蒸留酒のような味わいがある。

余談雑談 2024年8月3日
案の定、記録更新確定の今夏。 となれば引き籠り前提で、同系列で攻めるか飽きないようにジャンル変更か、とDVD鑑賞の順番を熟考したり、TVでの流し見的時間潰しが常態化。 ところが今の時期、テレビはパリ一色。とてもヘソ曲がりな自分は絶対に観ない