スタッフ
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
原作:ロジェ・ダシェルエ
脚本:アンリ・ジャンソン、ロジェ・ダシェルエ
撮影:ジュール・クリュージェ
音楽:ヴィンセント・スコット
キャスト
ペペ / ジャン・ギャバン
ギャビー / ミレーユ・バラン
イネス / リーヌ・ノロ
スリマン / リュカ・グリドゥ
爺さん / サテュルナン・ファーブル
カルロス / ガブリエル・ガブリオ
ジャンヴィエ / フィリップ・リシャール
タニア / フレエル
ピエロー / ジルベール・ジル
日本公開: 1939年
製作国: フランス M・M・ハキム作品
配給: 東和
あらすじとコメント
フランスの名匠ジュリアン・デュヴィヴィエ作品であり、日本に於ける彼の超有名作にしてみた。異国情緒に満ちたドラマの秀作。
アルジェリア、カスバ風光明媚な港町であるが、一部、迷路のように入り組む貧民窟があった。そこは、身を隠すには絶好の場所でもあり、世界中から犯罪者が流入し、地元警察も一切、手出しが出来ない場所でもあった。
そこにフランスからやって来た強盗犯のぺぺ(ジャン・ギャバン)がいた。彼は持ち前の腕っぷしの強さと色男振りで、いつしか、そこの顔役になっていた。そんなペペを逮捕するべく、パリから刑事たちが派遣された。だが、貧民窟にいる限り逮捕は難しいと告げる現地警察の刑事スリマン(リュカ・グリドゥ)。
それでもフランス警察軍団は、迷宮でのぺぺの住居を突き止め、急襲する。外出していた彼は、仲間らと応戦するが負傷。何とか逃げ切って愛人イネス(リーヌ・ノロ)の酒場に行くと、偶然、フランス人観光客四人組とでくわしてしまう。
その中に、高価な宝石を身に着けた美女ギャビー(ミレーユ・バラン)がいたことから・・・
異国に逃げ込んだ犯罪者がパリへの郷愁を誘う美女と繰り広げるラブ・ロマンス。
タフで二枚目の犯罪者。情婦はいるが、貧民窟の女性たちからも羨望の眼差しで見られ、犯罪者仲間からも一目置かれている。
地元警察の刑事とも顔見知りではあるが、そこから出なければ逮捕されないとも知っている。別な見方をすれば小さな世界での「籠の鳥」状態でもあるのだが。
そこで知り合うのが金持ち夫人である故郷パリを喚起させる美女。しかし、彼女もお姫様でなく、過去には色々と訳アリ風情だ。
お互いが惹かれ合うのは当然の成り行き。
男女間の絶妙な駆け引きが繰り広げられ、それを利用して男を逮捕しようと画策する警察やイヌたちが絡む展開。
異国情緒たっぷりの場所で、暑さと汚さの複雑な風が漂う。
薄氷を踏むような主人公と美女と愛人の三角関係、警察の狡猾な罠。主人公を慕う若造や仲間たち。
主人公の設定は、後年の日本のヤクザ映画にどれほどの影響を与えたのかが理解できよう。まさしく、当時の日本男性の琴線を刺激するキャラクターだ。
当時のフランス映画なので、ジャン・ギャバンがオーヴァー・アクトなので苦笑する場面もあるが、それでも、充分にカッコ良い。
デュヴィヴィエ演出も、アップや移動撮影、主人公の心模様を浮かび上がらせる合成、逆光を取り込んだズームなど、異国情緒を盛り上げつつ、それそれの登場人物の個性や行く末を案じさせる手法もニンマリとさせる。
興味深いのは、デュヴィヴィエ監督は、当時、日本のみで評価が高く、フランスや他の海外では、低評価の監督であった。本作もサイレント映画等の有名作の影響があるとか、海外で批判されたが、当時の日本の評論家は、こぞって反論した。
後年、日本の評論家たちの見識が正しかったと名誉回復した監督でもあり、フランスでも現在は、名監督として認知されている。
小津安二郎や成瀬巳喜男が、国内での評価は低かったが、フランスの評論家たちにより再評価された逆パターンでもある。ある意味、評論家は、それなりの影響力を保持していたという証左。
完全なるクラシック映画ゆえ、時代性は感じさせるが、映画が映画であった時代の異色フィルム・ノワールとして記憶されるべき秀作である。