大部屋の病室での人間模様。
治療が終り出て行く患者、新たに入院してくる者。共通しているのは、何かしらの疾病や怪我をしているということ。そこで人間の本性が出る。
いきなり自分は大人物だから、一目置けと大風呂敷を広げる者。とあるレースでワールド・チャンピオンになった寡黙な若きアスリートなど。だが、誰もが、やがて治療か手術以外、何もない日々に感化されていく。
やがて、退院の日。仲間になった者たちに拍手で見送られ、涙ながらに出て行く人間もいた。
時は年度末。同じく看護師も数名退所していった。誇り高き職業を辞し、仲間たちに見送られる光景にも居合わせた。しかし、患者同士の退院とは微妙に違う温度差を感じた。そこに流れていたのは、『同僚』としての距離感だ。寿退社で涙を流す相手に送られる嫉妬と羨望の眼差し。
こちらの退院も近付いてきた日。まだ、居残ってリハビリ治療する若き仲間たちに、皆が退院したら同窓会をしたいからと連絡先を尋かれた。教えると、すぐに向こうからアドレス告知のための簡単な挨拶メールが来た。
その全員分に写メ画像が添付されていた。それぞれ金具などで固定してある手術後の骨折箇所を写したレントゲン写真である。
なるほど普通ではあり得ない関係性だよなと妙に納得し、こちらも真似してレントゲン写真を携帯電話に登録した。
だが、まだ、それを添付して誰にも送ってない。