(ハル)               平成7年(1995年)

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スタッフ

監督:森田芳光
製作:鈴木光
脚本:森田芳光
撮影:高瀬比呂志
音楽:野力泰一、佐橋俊彦

キャスト

藤間美津江 / 深津絵里
早見昇 / 内野聖陽
ローズ / 戸田菜穂
戸部正午 / 竹下宏次郎
早見の恋人 / 山崎直子
山上博幸 / 宮沢和史
カレー屋店主 / 鶴久政治
美津江の父親 / 平泉征
スーパーの店長 / 潮哲也
次郎の母親 / 八木昌子

製作国: 日本 光和インターナショナル作品
配給: 東宝


あらすじとコメント

今年初の<番外編>。「初春」ともいうし、「春」の名が付く作品を考えた。で、行き着いたのが変化球。

東京。小さな輸入食品商社に勤める早見(内野聖陽)は、映画ファンの恋人のため、情報を得ようと、ある映画チャットに「ハル」というハンドル・ネームで参加した。

しかし、初めてで戸惑ってしまい、皆から、かわれる。そんな時、「ほし」という男からメールが来る。誰も最初は初心者だから気にするな、と。しかし、「ほし」というのは岩手県の盛岡に住む美津江(深津絵里)だった。

彼女を男と信じて、個別にメールを始める早見。だが、そんな美津江にはストーカー的な男がいて、彼女に付きまとっていた。そんなことは微塵もださず、メール交換をする二人。

やがて、そのチャットに入ってきたセックスに興味津々だというローズ(戸田奈穂)が、早見に対して、実際に会おうと誘ってきて・・・

文字と映像の融合を図った意欲作にして佳作。

本作は、ほぼ80パーセントがメール交換による文章の応報で繰広げられる。

そのやり取りが、画面全体に映しだされるという作劇であるが、画面に重なるのはキーボードを打ち込む音ではなく、ラジオから流れる天気予報や、機械音声による時報案内だ。

冒頭から、普通の映画ではないと感じさせる。

『チャット』という、お互いがまったくの見ず知らずでありながら、誰でも勝手に参加できるコミュニケーション手段。そこには、大都会の孤独と同様に、匿名性ゆえの孤独がある。

顔も姿も見えないから、どのような人間にも成りすませるし、傷つけることも平気で出来る。殺伐とした時代に、殺伐としたまま参加できる便利なツールでもあるのだ。

そんな中で、男と偽って地方から参加する若い女。周りは畑ばかりで、一軒家にたった一人で住んでいる。大都会の雑踏の中で感じる孤独とは違い、何もない孤独。

やがて、主人公二人の距離はメールを通して、近付き、深まっていく。しかし、実際には会えないからこそ、お互いが素直に心情を告げるし、逆に嘘もつくのだ。

そういったメールでのやり取りを延々と見せながら、彼らの実生活が描写される。

その描写が切ない。現実をオブラートに包んで書くときもあり、真逆なこともある。すべてを知っているのは、映画を見ているこちら側だけ。

それでも、メールを重ねていくうちに、お互いに、なくてはならない存在になっていく。「依存」である。

帰宅すると、部屋の電気も点けずに、先ず、PCの電源を入れる。そして、立ち上がった画面に『新着メールはありません』と表示される空虚感。

そんな二人に実生活ではバーチャルではない『現実』が、次々と起きていく。その落差と温度差。

孤独と呼ぶには、多少の身勝手さを感じるが、生まれたときから、そこそこ何でもあるのが普通である世代。すべてバーチャルなくせに、相手からのメールが来ないと不安になり、実生活にも影響がでてくる。その空虚さと切なさ。

文通とは違い、直筆の温かみもなければ、便箋などのチョイスによる相手のセンスもうかがい知れない。ただ、入力され送信される文字。

しかし、延々と繰り返されるメールの文章で、真実が浮かび上がってくる展開に、新たな映像の可能性を感じた。

だが、そういった手法は「電車男」(2005)などで、以後、多用されてしまい、現在では、決して目新しくないし、画面全体に拡がる『文字』というのも、まるで「ケータイ小説」を読んでいる感覚なのかもしれない。

今回DVDで見直して、時代の流れの速さを痛感しつつ、逆に、文通のような不思議なぬくもりを感じた。そんな時代と人間性。

本作には、携帯電話や写メール交換は登場しない。その代わり重要なファクターとして登場するのが8ミリ・ビデオカメラ。

15年も前に作られた本作を、今の若者が見ると、やはりトロくて、古臭いと感じ、本作のような関係性ですら、過去の遺物として処理されるのか。

もし、そうであるなら、この映画は愛おしい。

余談雑談 2010年1月11日
中期予報とは違い、思いの他、寒い冬。 で、今回の都々逸。 「痴話のこたつに情けのふとん いろを引き出す茶わん酒」 『こたつ』と『ふとん』に『茶わん酒』。築46年目の古ぼけたマンションに住む自分としては、そういったものすら、「思い出の中に生き