年老いた母が営む実家の煙草店。
十月からの値上げが目前である。先立ても、まったく知らない男性が小さな子供を自転車に乗せてやって来た。「~を10カートンください」
「駆込み需要」なのだろう。だが、対応したのは母親。こちらは近くのテーブルで一服しながら、見るとはなく見ていた。
そんな数の在庫がないと言うと、予約が出来ますか、と尋いてきた。前金はいりませんが、スイマセンが名前と住所を教えていただけますか、と母が応えた。
その男性は当然という風情で、絶対に今月中に購入に来ますと、メモに欲しい銘柄と連絡先を書いた。逆に、一見の客に手付金も取らずに信用してくれるのかと笑顔が浮かんでいた。
もしかしたら、冗談で実際に買いに来ないのかも知れぬ。でも、料金後払いで、先に商品を渡すわけではない。それにどう見ても未青年ではなかった。
昨今、喫煙者は肩身が狭い。それゆえか、妙に喫煙家は低姿勢で、居丈高ではない人が多いんだなと感じた。でも、それだけ大量購入をするのだ。きっと、その客も禁煙を考えてはいないのかも知れぬ。
近代的前向きな健康志向諸氏、もしくは嫌煙家諸氏よ、アンタ方の努力の賜物で、喫煙場所は減る一方だし、全面禁煙までもう一息だ。頑張れ。
でもな、喫煙者は卑屈そうに見えながら、細々と喫煙を続けそうだぞ。何故なら、彼らは低姿勢で笑顔を浮かべながらも、その奥に、頑として自らを曲げなさそうな雰囲気があるから。