スタッフ
監督:エットーレ・スコラ
製作:マリオ&ヴィットリオ・チェッキ・ゴーリ
脚本:エットーレ・スコラ
撮影:ルチアーノ・トヴォリ
音楽:アルマンド・トロヴァヨーリ
キャスト
ジョルダン / マルチェロ・マストロヤンニ
ルイージ / マッシモ・トロイージ
シャンタル / マリナ・ヴラディ
エウジーニア / パメラ・ヴィッロレーシ
パオロ氏 / パオロ・パネッリ
ココーメロ / フェッルチョ・カストロヌオーヴォ
アルノ / ヴァーノン・ダウチェフ
ジョルダンの父 / マウロ・ボスコ
ジョルダン少年時代 / フィリッポ・グレコ
日本公開: 1991年
製作国: イタリア チェッキ・ゴーリ作品
配給: ヘラルド・エース
あらすじとコメント
前回の名作「素晴らしき哉、人生!」(1946)を観ている人には堪らないヒューマン・ドラマ。しかも、かなり「映画オタク」の心理をくすぐる、『大人げのない大人』に捧げる映画愛を謳い上げた隠れたる名編。
イタリア、ラツィオ州
小さな田舎町にある古ぼけた映画館「スプレンドール座」。テレビやビデオに押され観客が激減し、経営困難に陥っていた。そこの館主ジョルダン(マルチェロ・マストヤンニ)は、戦前に父親の広場での移動映画上映の手伝いをして以来、ずっと映画の仕事に携わってきた。
若い頃にフランス人でレヴューの踊り子だったシャンタル(マリナ・ヴラディ)を映画館の案内嬢として引き抜き、その後も完全なる「映画オタク」のルイージ(マッシモ・トロイージ)が映写技師になり、斜陽産業ながらも細々と営業を続けてきた。
しかし、遂にというか当然というか、資金繰りもままならず閉館が決まって・・・
映画オタクは涙なしでは観られないドラマの佳作。
冒頭は時代に取り残され閉館が決まったところからスタートする。つまり倒叙式で結末先にありき。
映画は既に過去の産業であり、その輝きを完全に終えていた。
これは世界中で起きたことでありアメリカ映画ではピーター・ボグダノヴィッチ監督の「ラスト・ショー」(1971)などでも描かれ、テレビ放映に取って代わられていた時期。
東京でも数々の大型スクリーンの映画館が閉鎖され、ブランクの後シネコンとして甦ったのは周知の事実である。
しかし、映画は映画館で観るものであり、しかも高額入場料の封切館でなく暫く経って安い名画座などに降りて来るのを待った。結果、傷だらけで雨が降るような状態のフィルム上映で、壊れかけの椅子で食い入るように銀幕を見つめるのが通常。
そんな状況下で、狂ったように通って観ていた自分など寂寥感と喪失感に襲われ平常心で観ていられなかった。
本作の日本公開時、やはり映画館と映画愛を謳った「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988)が、女性ファンを魅了して大ヒットした。
その陰でひっそりと劇場公開されたのが本作。映画オタクを自認する人間は全員が、こちらに軍配を挙げた。
何せイタリアのヴィスコンティやフェリーニ等のクラシック映画から、スェーデンの名匠イングマール・ベルイマンなど、映画ファンを自認するなら絶対に一度は観ているよな、と試すように映画の断片が登場し、それに限らず映画館のポスターで時代性や館主の嗜好性が垣間見られる寸法。
当時、映画狂仲間で本作内に登場する何割の断片映画が分かったかが、ある意味、マウントの取り合いというか自慢であった。
作劇としては分りやすく、昔が白黒で現代がカラー。それが、行ったり来たりと混然一体で入り混じる愉悦。
しかも映画が斜陽していった時期を知るものとしては、ソ連の社会主義映画大会をやったり、幕間にストリップショーを取り入れて 客足の回復を狙ったりと、トリヴィア的あるあるが数多く登場する。
そんな映画オタク心理をくすぐりつつ、終盤で割と長く映し出されるのが「素晴らしき哉、人生!」。そして本作のラストは、その作品が見事に繋がり映画ファンとしては涙を禁じ得なかった。
映画館は自分のようなオタク系が目を凝らして鑑賞する他に、デート場所なりナンパ・スポットでもあったと懐かしくて震える観客もいるだろうか。
かなり偏った映画愛で攻めてくるので、トータル的には佳作だろうが、個人的には一々がツボにハマり、何度も涙を禁じ得なかった秀作という認識。
しかもエットーレ・スコラ監督は相当な実力派で、偉大なる映画ファンだと感じる。
イタリア映画の中でルキノ・ヴィスコンティは『滅びの美学』を崇高に描いたが、本作では崇高さも誇り高さもない断片を挿入。またフェデリコ・フェリーニ監督の大人の幼児性ファンタジー傾向ではなく、もっと軽めのファンタジー要素映画を取り上げる。
つまり個性の違うイタリア二大巨匠の映画が登場してくるから両監督のわかりやすい対比でもあり、勉強にもなるのだから堪らない。
映画愛に満ち、時代の流れには逆らわないが頑固さと諦念さが浮かび上がる。
結果、やはり映画はシネコンではなく映画館で観たいよなとノスタルジーとセンチメンタリズムで押してくる稀有な名作。