ラ・ファミリア – LA FAMIGLIA(1987年)

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スタッフ
監督:エットーレ・スコラ
製作:フランコ・コッミテッリ
脚本:E・スコラ、ルジェッロ・マッカリ、フリオ・スカルベッリ
撮影:リカルド・アロノヴィッチ
音楽:アルマンド・トロヴァヨーロ

キャスト
カルロ / ヴィットリア・ガスマン
ベアトリーチェ / ステファニア・サンドレッリ
アドリアーナ / ファニー・アルダン
ジュリオ / マッシモ・ダッポルト
アデリーナ / オッタヴィア・ピッコロ
叔母ルイーザ / アレッサンドラ・パネッリ
叔母マルゲリータ / アティーナ・コンチ
叔母オメッラ / モニカ・スカッティーニ
アリスティーデ / メメ・ペルリーニ

日本公開: 1990年
製作国: イタリア マス・フィルム作品
配給: ギャガ

あらすじとコメント

イタリアの名匠エットーレ・スコラ。今回も主役に名コンビヴィットリオ・ガスマンを起用し、一人の男を中心とした大家族の人生を描くドラマにする。

イタリア、ローマ

メイン廊下を基準に左右に幾つもの部屋を有するアパートのワンフロア。そこに大家族が住んでいた。

1905年、その家族にカルロという男子が誕生した。すくすくと育った彼は後に個人教授となり、教え子ベアトリーチェの姉アドリアーナに恋心を抱いた。しかし、その恋は成就せず結局、1936年に妹の方と結婚し子供を二人儲けた。

やがて世間は不安定になり、カルロ(ヴィットリオ・ガスマン)の弟はファシスト党に入党、遂に第二次大戦が勃発して・・・

とある家族の80年に渡る人生模様を描く大河ドラマ。

主人公は戦争に加担せず社会主義に傾倒し、その上、偏屈な大学教授へとなっていく。

妻の姉と再会し危うい空気が流れたり、それなりの知的イタリア男の生態を描いていく中で、喧嘩ばかりしながらずっと同じフロアに住む三人の叔母、どこか抜けた態の叔父などが断片的に登場してきて、時代と共にそれぞれの置かれた状況変化を描く。

ぶつ切り感があるので、多い登場人物各々の性格と成長の背景を考えて鑑賞していかないと混乱する観客もいよう。当然、成長すれば同じ役名でも演者が変わるし、結婚すればその相手も新たに加入してくるのだし。

しかし、それもエットーレ・スコラ監督の意図であり、親族のそれぞれの子供たちが成長し、結婚すれば当然子供が産まれ、更にその子らが成長すれば、また色恋沙汰が生まれて行く。

つまり人間は個性があるが、それぞれ結局、似たような人生を送っていき、それが脈々と流れる『家族』なのだと提示してくる。

捉えようによってはコッポラの「ゴッド・ファーザー」(1972)にも似た「血脈」を感じ、そこにこそ大家族主義のイタリアの伝統が浮かび上がる。それでも、やはり時代と共に変貌していく社会情勢や個人の価値観の変貌を興味深く描写していく力量は流石である。

ただし、映画での設定が20世紀初頭から80年ぐらいまでの世相なので、まだLGBT的な人間はでてこない。それでも時代に流されファシストになる者、逆にそんな過去などさも無かったように振る舞う者など、誰も自己中心的でもあると見せてくる。

結局、誰にも肩入れすることなく淡々と群像劇を見せられるのだが。葬式で集まったり、夏は一ヶ月も家族全員でヴァカンスに行くとか、それも時代性である。

ほぼ、古い石造りのアパートメントのワンフロアのみで繰り広げられるので解放感はない。冒頭からラストに至る前、常にメインの廊下にカメラを据え、各部屋から様々な子どもたちが登場してきて、それで誰の間に子供が産まれたとか時代の流れを転換する表現方法は、大家族の誰にも流れ続けるメインの大きな川にも似ていると感じさせ、それぞれ支流の人生があっても、結局メインの大河に流れ込むという比喩も面白い。

そのための固定カメラによるメイン廊下が非常に印象的なのである。結局、そこを通らなければ自分の「人生」という小部屋からどこにも行けぬし、災害に巻き込まれる以外に何事も起こらないからだ。

主人公も幼少期、青年期、中年期と俳優が代わるが、途中から出場のヴィットリオ・ガスマンや妻の姉役のファニー・アルダンなど、若い頃からの連続性を違和感なく演じ、しかも老年に至る過程でのメイクや演技の変更も素晴らしい。

実に地味だし、ぶつ切り感のある進行なので気に入らない観客もいるだろうが、マフィアなどと違い、これが本当の『家族』という単位での市井の人間の人生と感じさせる力作である。

日本でも盆暮れに一族郎党が本家などに集う習慣があったが、それも大分廃れたのと同じく、あちらでも核家族化が進んでいるのだろうかと推察したくなる骨太の大河ドラマである。

https://blog.apatchoffilm.com/2024/07/20/smalltalk/