スタッフ
監督:エドゥワール・モリナロ
製作:ジョルジュ・ダンシジャー
脚本:フランシス・ヴェベール
撮影:ラウール・クタール
音楽:ジャック・ブレル
キャスト
ミラン / リノ・ヴァンチュラ
ピニョン / ジャック・ブレル
ルイーズ / カロリーヌ・セリエ
ベルホップ / ニーノ・カステルヌォーヴォ
フッチ / ジャン・ピエール・ダラ
未来の母親 / アンジェラ・カルディール
ランドーニ / クサヴィエ・デプラ
ホテルの警部 / ジャン・ルイ・トリスタン
ヒッチハイカー / アンドレ・ヴァラルディ
日本公開: 未公開
製作国: フランス レ・フィルム・アリアーヌ作品
配給: なし
あらすじとコメント
今回も大のご贔屓俳優リノ・ヴァンチュラがノワール的役柄を演じている。ただし、監督が前作「彼奴を殺せ」(1959)と同じエドゥワール・モリナロなので、やはり何とも珍妙な作品ではある。
フランス、エロ─県
国を揺るがしかねない事件の重要参考人を狙った殺害未遂事件が発生した。当局は厳重なる身辺警護に当たり、いよいよ証言の日を迎えた。そして警官と群集で賑わう裁判所前のホテルに一人の男がやって来た。
ミラン(リノ・ヴァンチュラ)と名乗る男は5階の裁判所の正面ゲートが見渡せる部屋に入った。冷静にトランクを開けると中には分解されたライフルが入っていた。証人到着までまだ時間はある。彼は準備に取り掛かろうとすると隣室から大きな物音がして自室に水が入り込んできた。組み立て作業を中断し、フロントに電話を入れるとボーイがやって来てマスターキーで隣室を開錠した。
素知らぬ顔で一緒に中に入ると、何と浴室で首吊り自殺に失敗したピニョン(ジャック・ブレル)が茫然としていて・・・
うつ病男性と殺し屋が織り成す珍騒動。
証人殺害に失敗した自称プロの犯罪者を一発で仕留めた殺し屋。
常に仏頂面で口数も少なく実にミステリアス。まさしく「ゴルゴ13」というイメージでもある。
一方で妻に捨てられ、未練がましく妻がいる場所までのこのことやってきたワイシャツ専門のセールスマン。いかにも一目で妻に捨てられそうなタイプ。
その男は、どうやらうつ病を発症したらしく、このままでは再度自殺の恐れがあるから、警察なり病院に連絡しようとするホテルのボーイ。当然、そんなことをされては『仕事』に差し支えるとばかりに、殺し屋は自分が落ち着かせるからと言ったことから、話がややこしくなっていく展開。
ハッキリ言って、かなり力技のコメディ。ストーリィの整合性の無視から、ご都合主義を散りばめての進行と相成っている。
アメリカ映画程のドタバタでもないし、イタリア映画のようなバイタリティもない。妙に斜に構えたフランスらしい作風。とはいっても後にビリー・ワイルダーの遺作で、ジャック・レモンとウォルター・マッソーが共演した「新・おかしな二人/バディ・バディ」(1981・未)としてリメイクされている。
尤も、喜劇の名匠ワイルダーの遺作としては淋しい限りの出来でもあったが。なので、どちらかというと本作はオリジナルながら 更に苦手意識を感じる人も多いだろうか。
殺し屋もプロでありながら何かと頼ってくる男を見棄てることも殺害することも出来ず、協力体制の態を取りつつ何とか遠ざけようとするから、どうにもまどろっこしい。
殺し屋を演じるボクサー・チャンピオンだったリノ・ヴァンチュラの真面目な顔で不貞腐れた感の演技は面白い。それに監督のエドゥアール・モリナロは、元来フィルム・ノワール出身。ヴァンチュラとも組んだことがあり気心が知れていたのかもしれぬ。
そのヴァンチュラは鷹揚な演技だし、コメディ系よりもノワール系としての印象が日本では強いだろう。本当はコメディ系も多いのだが、本作同様、日本では未公開の作品が多い。
良い意味でも悪い意味でも悪役然とした、悪くいえば一本調子なのでコメディ向きとは感じない人も多いに違いない。
それでもフランス映画こそのコメディとしては、逆にその個性が際立つ起用作品も多い。
要は鷹揚ながら微妙な演技へのアプローチが見え隠れする俳優だからである。ただし、だからこそ、作品によっては当たり外れがあるのも間違いない。
本作はそんなヴァンチュラゆえに鑑賞に堪えうる作品と感じる。
