スタッフ
監督:石侍露堂
製作:石侍露堂
脚本:小松興志子、石侍露堂
撮影:坂本善尚
音楽:磯金俊一、岩淵一真、二本柳一朗 他
キャスト
諸橋総理大臣 / 古谷一行
寺崎主席秘書官 / 杉本哲太
瀬川情報室長 / 夏八木勲
篠塚官房長官 / 佐藤慶
櫻田総務庁長官 / 財津一郎
パク・アンリー / 夏木マリ
諸橋瑞恵 / 多岐川裕美
小池外務大臣 / 天田俊明
山内防衛庁長官 / 石田太郎
村尾悟 / 河原崎健三
製作国: 日本 「宣戦布告」製作委員会作品
配給: 東映
あらすじとコメント
第二次大戦以降、直接の戦闘を経験していない日本。もし、実際に交戦状態になったとしたらどうなるか。しかも、国内で。興味深い視点で展開するポリティカル・フィクションの佳作。
福井県、敦賀半島国籍不明の小型潜水艦が小名浜原発近くの海岸で座礁しているのが発見される。地元警察は機動隊を派遣し、周囲を封鎖。艦内に恐る恐る入ると死亡者二名を発見。
当然、そのことは政府筋にも通報され、諸橋総理(古谷一行)にも伝えられた。内閣調査室では、室長の瀬川(夏八木勲)も情報収集に奔走していた。やがて、その潜水艦が『北』のものであり、武装した特殊工作員数名が国内に潜入したことが判明。しかし、正確な人数や火力、また目的が判然としない。
地元警察は、万が一に備え、警視庁特殊部隊SATの派遣を決定。だが、警察本部長が許可した発砲命令に対し、諸橋総理は即座に「発砲許可」を取り消したことから・・・
起こりえるかもしれない状況に日本政府はどう対応するかをシニカルに描く佳作。
戦後、ほぼ一党による政権を維持してきた、『先進国・日本』。かつて政権譲渡した過去もあるし、現在は連立政権でもあるが。
その中で政治家は何をしてきたか。自分たちの政党内部での派閥による駆け引きと、重要案件の先送りである。これは周知の事実であるし、今後も継続されて行くことだろう。
そこに、日本を「敵」と特定する国の特殊部隊が火力を持って潜入したらどうなるか。当初、政権内でも、『侵攻』か『偶然の事故』かで意見が割れる。
先ず、動くのは地元警察。しかも、そこには本庁から派遣されているエリートと地元との格差と軋轢が生じている。更に警察特殊部隊がいるものの、マスコミや国民の眼があるので、簡単に発砲命令がだせない。
しかし、もし有事に発展した際、警察だけでは対応できない場合、自衛隊の出動はあり得るのか。すると、それには「防衛出動」か「治安出動」かの線引きもあり、曖昧である。
防衛庁長官は、すぐさま出動要請を総理に具申すると、すかさず、常に行動を共にする防衛官僚が、細かい以前からの法的問題を提起する。『超法規的措置』を決断するのは総理大臣であるが、自分はシッカリと保身を兼ねて、事実を羅列するのだ。それが官僚であるとばかりに。
そこで、その場しのぎ的場当り主義で、重要案件を先送りしてきた先人政治家たちの責任が浮かび上がる。
展開としては当然、死者もでてくるし、都度、政府の即断が要求される展開。しかし、それでも、派閥均衡や「政争の具」としてしか捕らえない政治家も数多くいる。
つまり『大臣』にはなりたいが、責任は取りたくないのだ。そんな中で、当然、事態は刻々と悪化して行き、アメリカ、中国、韓国、ロシアなども絡んでくる。
原作は麻生幾のもので、総理大臣のモデルは小泉純一郎である。しかし、原作を書き下ろした当時は、まだ小泉元総理は、自民党内の単なる「変わり者」で、キャラクターは面白いが、当然、総理大臣にはなれっこないと思われていたのだ。
そして、いかにも策士として描かれる官房長官は小渕恵三であり、重鎮の総務庁長官役は野中弘務らしい。さもありなんと思えるし、他にも、この政治家は、誰それがモデルかと想像するのも楽しい。
そもそも現在は核開発による戦争危機が取り沙汰せれているので、時代性を感じさせるが、当時は斬新であり、リアルであった。
ただ、映画自体は進行を早めるために端折過ぎの部分が目立つし、ある程度、日本の政治スタイルや防衛システムを理解していないと、置いていかれるかもしれない。逆に、万人受けのための余計な説明的場面を排したことによって、リズム感が保たれているとも感じる。
ただ、どうしても、この手の作品の弱点である『落し所』に、感動は薄れるのだが。
それでも、この手の日本映画では珍しく上手くまとまった作品である。