いやー、寒い。今回は旅の空からの配信。現在、旅館のテレビから、日本のあちらこちらで、強烈な寒波の影響が出ていると流れている。
自分が旅に出たのは水曜日で、その日から特に注意喚起が報道されていた。とはいえ、せっかくの旅だとばかり出発。
だが、どうだ。やはり、こういうときの予報は当たる。今年初めて東京を離れ、着いた福岡では雪が舞っていた。出だしからこれである。
そして目的地の門司は「港」が付くだけに、駅前は港。対岸は下関で、海は白波が立つ強風。平日ということもあり、観光客など皆無。
この地での目的は二つ。その内のひとつ、『角打ち』の酒屋へ。
間口一間、七坪程度のウナギの寝床的な場所で、立呑み専用のカウンターがあり、奥は三畳あるかどうかの住居であった。老婆が一人で切り盛りし、先客がひとり。
その手の店の醍醐味であろう、70代過ぎの先客が、どちらからか、と話しかけてきた。
こちらが返答すると、何と、その方は浅草の北、『山谷』出身と仰った。悪名高い日雇労働者の街である。しかし、話を聞くと、親の墓は『谷中』にあるという。そこに墓地を持てるということは、それなりの出自であろう。
日本を幾つか渡り、門司に落ち着いたとか。年に一、二度、墓参りに行くが、体力的に限界だと。旅の祈念をされ、その方は店を辞した。こちらも肴も出ないので、ビール大瓶一本と酒を一合飲んで勘定を頼んだ。代金は720円。
不思議な一期一会をして、時間もあるので、寒い中を歩いたら、「門司港 地ビール工房」なるものを発見。酒好きとしては立ち寄らぬわけには行かぬ。
一階が全面ガラス張りのビヤホールで、眼前は海を隔てて下関。二階に製造タンクが見える。ラガー、バイツェン、ペール・エールなるのを一杯づつ呑んで、ホテルへ帰投。
夜は、目的のもうひとつである、久方振りの贅沢「天然とらふぐ」を由緒正しき料亭で頂く。100年ものの木造建造物で、戦時中、将校用捕虜収容所用に接収され、その所為か、そこだけが空爆を免れたのだとか。
完全貸切で、十畳の個室に、一々、女将が料理を運び込んでくれる。驚いたのは、ガスコンロがなく、ふぐ鍋も小鉢に入れられて出てきたこと。
ひとりに完全一匹使用で、80歳を超えた大旦那が『二枚引き』に拘り、出てきた「ふぐ刺し」の量の多さには悶絶した。
甘辛いタレで頂く「焼きふぐ」、口直しには、若筍と若布の汁。鍋もポン酢の他に、餅と白子の入った白味噌仕立てまで出てきた。「ひれ酒」は、ひれが二、三枚入っていて御代わりを頼むと、熱燗を継ぎ足すのではなく、同じものが新規に出てくる。確かに3万円もすれば、それなりなのだろう。料亭でふぐ。一生、忘れない体験であった。
翌朝、宿泊先の朝食ブッフェにも驚かされた。朝からウエルカム・ドリンクでもなかろうが、ロゼのスパークリング・ワインが飲み放題、門司港名物らしい「焼きカレー」やら「鮮魚のカルパッチョ」、「ふぐの一夜干し」まであった。
ひたすら飲食に明け暮れた門司港。そして、満腹のまま向かったのが、島根の温泉津温泉。
さてさて、そこでは何があるのだろうか。