スタッフ
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
製作:アルフレッド・レヴィ
脚本:N・バルダッコ、E・メディオーリ、L・ヴィスコンティ
撮影:アルマンド・ナンヌッツィ
音楽:モーリス・ジャール
キャスト
ブルックマン / ダーク・ボガード
ソフィー / イングリット・チューリン
アッシェンバッハ / ヘルムート・グリム
マーティン / ヘルムート・バーガー
タルマン / ウンベルト・オルシーニ
エリザべス / シャーロット・ランプリング
ギュンター / ルノー・ヴェルレー
コンスタンティン / ラインハルト・コルデホフ
オルガ / フロリンダ・ボルカン
日本公開: 1970年
製作国: イタリア、西独 プラエシデンス他 作品
配給: ワーナー
あらすじとコメント
ダーク・ボガートとシャーロット・ランプリング共演で、「ナチス」が絡む話で繋げる。今回はドイツ人がどのように「ナチス」に取り込まれて行ったかを描く重厚なるドラマ。
ドイツ、ルール地方鉄鋼業を営み、巨大なる権力を持つエッセンベックの一族。家長である男爵の誕生日に雇われ人ながも総支配人になったブルックマン(ダーク・ボガード)が、祝いにやって来た。彼は、家長の亡き息子の嫁であるソフィ(イングリッド・チューリン)と愛人関係にあり、いずれ養子となり、実権を握ろうと考えていた。
誕生日の参加者には、姪の娘エリザべート(シャーロット・ランプリング)の家族もいた。彼女らは自由主義者であり、ナチスの台頭を心底嫌がっていた。しかし副社長である甥は「ナチ突撃隊」の幹部。当然、反目し合っていた。
戦争の影も忍び寄ってきている時期。それぞれの思惑が交錯する誕生日会。ブルックマンの友人で親衛隊幹部も参加し、冷徹に一族の人間観察を行っている。
そしてブルックマンは、愛人ソフィの息子マーティン(ヘルムート・バーガー)の異常性癖を利用しようと・・・
戦争が忍び寄る不安定な時下で描かれるおぞましい人間関係。
結論から言うと、気色悪いほどの秀作である。かの三島由紀夫が絶賛したことでも知られる作品。
以前までのドイツ帝国主義が崩れ、ヒトラーによるナチズムが着々と新興宗教のように台頭してきた時期。
そこに財閥的金満一族がおり、職種は『鉄鋼』。戦争には必要不可欠というか再重要な業種形態。
当然、魑魅魍魎が跋扈する。自由主義で争いが苦手なお嬢様系家族は、早々に殺人容疑で虐げられ本筋から退場。残るのは上昇志向の強い市井出身者や、金満一族ゆえのいびつな価値観に支配される上流階級者のみ。
気色悪い人間たちばかりであり、ヴィスコンティお得意の財閥一族が時代の波に飲み込まれて廃れていく『滅びの美学』ではある。
しかし、時代は「ナチス」であり、しかもその中でも「陸軍」、「親衛隊」、「ナチ突撃隊」といった権力抗争もあり、歴史上の真実である、ある意味、同士討ち的な「血の粛清」が、えげつなく描かれたりするので、決して美学としては存在しない。それが戦争でもあるかのように。
登場人物が多く、それぞれが脚の引っ張り合いや、引き摺り下ろし行動をとっていく。
それらが重厚なセットや、華美な衣装を纏った俳優たちによって重苦しく紡がれていく内容。そこに際立つのはグロテスクなデカダンスであり、気色悪さのみ。
矢鱈と「汗」が強調され、その人物の焦燥を描き、ほぼ男性の全員が男色家を想像させる描かれ方で、こちらに精神的枯渇感と嫌悪感を押し付けてくる。
成程、三島由紀夫が絶賛する作品だと感じる。ただし、好き嫌いはハッキリ別れようか。