スタッフ
監督:キャロル・リード
製作:キャロル・リード
脚本:ウィリアム・フェアチャイルド
撮影:ジョン・ウィルコックス
音楽:ブライアン・イースデール
キャスト
ウィレムス / トレヴァー・ハワード
リンガード / ラルフ・リチャードソン
オルメイヤー / ロバート・モーレイ
アイッサ / ケリマ
オルメイヤー夫人 / ウェンディ・ヒラー
ババラッチ / ジョージ・クルーレス
ヴィンク / ウィルフリッド・ハイド・ホワイト
ウィリアムス夫人 / ベティ・アン・ディビス
ラムゼイ / ジェームス・ケニー
日本公開: 1953年
製作国: イギリス ロンドン・フィルム作品
配給: 東和
あらすじとコメント
前回の「封鎖作戦」(1952)で渋い演技を披露した英国のご贔屓俳優トレヴァー・ハワード。南洋の僻地で繰り広げられる人間の脆弱さを描くドラマで、今回も彼の力量が際立つ作品。
シンガポールイギリスの貿易商社で支配人として働くウィレムス(トレヴァー・ハワード)は、会社の金を着服し解雇された。しかも警察に通報され逮捕の可能性まででてきた。
そんな折、12歳の時に孤児だった彼を助けたリンガード船長(ラルフ・リチャードソン)の船が入港してきた。船長は誰も知らぬ場所を見つけ交易し、ゴムや錫を一手に買占め利益を独占していた。身の危険を感じているウィレムスは、船長の前で狂言自殺を試み、身を隠すために秘密の交易所へ匿うように仕向けた。
そこは海流が激しい難所を超えた先にあり、船長の娘婿オルマイヤー(ロバート・モーレイ)が小さな娘と仕切っている僻地であった。船長は次に自分が戻るまで反省しろと命じ集荷を終えると帰って行った。
その場所には川の反対側に水上生活をしている部族もいた。彼らは元々は海賊で、今は船長らから蔑ろにされているのでアラブ系の貿易商人と取引しようと画策していた。
そんな部族の酋長の娘アイサ(ケリマ)を見初めたウィレムスは・・・
身勝手な男の因果応報的人生を描く人間ドラマの佳作。
キャロル・リード監督が「第三の男」(1949)の次に、前作で脇役起用したトレヴァー・ハワードを主役に据えて発表した作品である。
孤児で拾われ恩恵を受けながら育ったのに傍若無人で周囲からは嫌われている男。
会社の金を横領し逮捕されそうになると恩人船長を丸め込み逃がしてもらおうとする。しかし、船長も苦労人で主人公の性格など先刻承知。
ボルネオと思しき僻地で反省させようとするが、そこでも傍若無人さは変わらず。現地責任者の娘婿は主人公のことを知っているので、厄介者を押し付けられたと忸怩たる思いを抱いている。
当然、主人公は真面目に働こうともせず、文句しか吐かない始末。そこに元海賊部族の酋長の娘が絡んでくる。
しかもその娘というのが、かなり強烈なタイプ。娘婿もそれを知って注意するが、聞き入れるはずもなく進行していく。
植民地政策を取っていたイギリスらしく、白人優位主義ですべてを運ぼうとするイギリス人たち。一方、現地人も憧れと侮蔑を併せ持つ。
恐らく異文化交流的恋愛が繰り広げられるのかと思いきや、さにあらず。
イギリスらしいシニカルな視線で、身勝手で誰も感情移入出来ないような男にスポットを当て、苦労人である育ての親的船長にすら人を見る目は持ち合わせていないと感じさせ、真面目そうな娘婿まで同じ視線で描いていく。
設定自体は単なる愛憎ドラマなのだが、名匠キャロル・リードらしく、とてもサスペンスフルな手法で捌いていく。
「第三の男」同様、白黒撮影が際立つ光の陰影を駆使し、本来南国という、ある意味パラダイスを地の果ての地獄のように描いていく。
普通の恋愛絡みの人間ドラマだが、名匠リードの手にかかると、これほどスリリングでサスペンスフルな作品になるのかと唸った。
往年のイギリス映画の実力を感じさせる力作である。