スタッフ
監督:キャロル・リード
製作:キャロル・リード
脚本:F・L・グリーン、R・C・シェリフ
撮影:ロバート・クラスカー
音楽:ウィリアム・オーウェン
キャスト
マックイーン / ジェームス・メイソン
キャサリン / キャスリーン・ライアン
ルーキー / ロバート・ニュートン
パット / シリル・キューザック
警部 / デニス・オディア
ノーラン / ダン・オハーリー
ロージー / フェイ・コンプトン
デニス / ロバート・ビーティ
トーバー / エルウィン・ブルック・ジョーンズ
日本公開: 1951年
製作国: イギリス トゥー・シティーズ・プロ作品
配給: BCFC、NCC
あらすじとコメント
前回の「ローマ帝国の滅亡」(1964)で、哲学者役を重厚に演じたジェームス・メイソン。イギリス出身の俳優で、初期出演作では代表格の作品を紹介する。IRAらしきテロ組織の首領の一日を描く佳作。
北アイルランド、ベルファスト
収監中に脱獄したマックィーン(ジェームス・メイソン)は仲間の家に隠れていた。服役による体力低下が懸念されたが、首領として結社の活動資金を得るために工場襲撃を決行しようとしていた。
そんな彼を慕うキャサリン(キャスリーン・ライアン)は、やはり万全の状態でないことを心配していたが理想に燃える男には馬耳東風。
そして仲間4人を従えて操業中の工場に押し入った。計画は成功するが外にでた瞬間、緊張と無理が祟り陽光に立ち眩みを起こすマックィーン。たじろいでいると追って来た警備員ともみ合いになり、相手を射殺してしまう。
自分も肩を撃たれ重傷を負うも何とか車に掴まった。急発進する仲間らの乗った車だったが、途中で振り落とされてしまい・・・
負傷した犯罪リーダーの半日を描くスリラーの佳作。
理想肌の主人公。脱獄直後であり、体力は万全ではない。それでもリーダーとして計画を実行する。
ところが、信頼のおける仲間は後方待機で実行犯の仲間らは頼りなく、重傷を負った主人公を助けることなく逃走。
結果、たった独りで逃走を図ることになるという展開。
そんな主人公を慕うヒロインは、なり振り構わず探そうと必死になるし、当然、警察も躍起になって大包囲網を敷く。
治療も受けずに防空壕に逃げ込むが傷は悪化する一方。
その過程で貧民窟の少女や、若いカップル、主犯と知らずに治療をしようとする婦人二人に、懸賞金を欲しがる乞食、主人公をよく知る牧師、泰然とした警部、気性の激しい芸術家に、パブのマスターと様々な人物が登場してきて助けたり追い詰めたりとサスペンスを加速させる。
とはいっても戦後2年目の作品であり、鷹揚なリズム感ではある。しかし、映画史上の秀作「第三の男」(1949)を後に発表するキャロル・リードの演出は見事で、出来ることが限られた単純な性能の撮影機材の特性を生かす手法には恐れ入る。
「第三の男」でも効果的に起用される、わざと画面を斜にして心理的不安定感を煽る画面や、白黒ゆえの見事なる陰影のみで浮かび上がる人物像など、薄氷の上か砂上の楼閣の如く情緒を煽り、観客を見事に追い込んでくる。
神経質で病的、且つ深手によって弱っていく演技を見せるジェームス・メイソンもシェイクスピア的悲劇性を際立たせて素晴らしい。
イギリス映画絶頂期の作品でペシミズム感が際立ち、犯罪者には決して幸福はないという教示でもあり、映画の一つの方向性を示唆しているとも感じる。
白黒スタンダード画面の愉悦に浸れる秀作寄りの佳作。