スタッフ
監督:ハル・アシュビー
製作:スティーヴ・ロス
脚本:オリヴァー・ストーン、デヴィッド・リー・ヘンリー
撮影:スティーヴン・H・ブラム
音楽:ジェームス・ニュートン・ハワード
キャスト
スカダー / ジェフ・ブリッジス
サラ / ロザンナ・アークエット
サニー / アレクサンドラ・ポール
チャンス / ランディ・ブルックス
エンジェル / アンディ・ガルシア
リンダ / リサ・スローン
ローリー / クリスタ・デントン
クィンテロ / ヴァンス・ヴァレンシア
ヘカー / ウィルフリッド・ヘルメンデス
日本公開: 1986年
製作国: アメリカ P・S・オーガニゼーション作品
配給: コロンビア
あらすじとコメント
前回の「チャンス」(1979)の監督ハル・アシュビー。ここでも「少年は虹を渡る」(1971)、「さらば冬のかもめ」(1973)、「シャンプー」(1975)、「ウディ・ガスリー/わが心のふるさと」(1976)と計5本も扱った監督で、しっとりした人間ドラマが得意というイメージが強い。今回は異質にして、最後の監督作品を選んでみた。
アメリカ、ロサンジェルスロス市警のスカダー(ジェフ・ブリッジス)は、同僚らと逮捕令状がでている麻薬密売人の自宅に踏み込んだ。
子供を含めた家族で食事中であったが、被疑者はバットで同僚らに襲いかかった。身の危険を感じた彼は、銃で相手を射殺してしまう。
正当防衛と思うスカダーだったが、上層部は彼がアル中で、逮捕直前に飲酒しており、相手が銃を所持していなかったことで過剰防衛と判断され休職にさせられる。それにより彼の依存症は悪化し、離婚までされてしまう。
半年後、『禁酒会』に参加し続け、断酒に成功したスカダーは、同じ会に参加していた若い女性サニーから声を掛けられた。
是非、あなたに会って欲しい女性がいるの・・・
アル中の元警官が売春と麻薬が絡む犯罪に巻き込まれるアクション系人間ドラマ。
断酒に成功した主人公。しかし、呼ばれるままに豪邸に行くとかつて自分が逮捕した男が高級売春組織を運営していることを知る。
更にヒスパニック系で、いかにも怪しい男もいて、昔の本能が蘇るが、売春組織から足を洗いたがっている女性を救えなかったことから、また酒に溺れるという展開。
結構ひねくれた内容で、頼りにならない主人公に別な売春婦が絡み、その女を籠絡したがるヒスパニック系の跳ね返りの若者が、売春組織の男とは別に、麻薬犯罪に絡んでいるフシがあると示してくる。
警察もアル中で問題を起こす主人公に閉口し、非協力的。仕方なく協力を求めるのは、自分が逮捕した売春組織の男。
コメディかと思わせる展開もあるが、至って真面目な作劇。
神経症的主人公の頼りなさ加減が全編を貫き、等身大的人間として描かれていく。
特段、頭が切れるわけでもなく、思い付き型行動にでる。ノワール的ムードもないし、破滅型のセオリーもない。現職警官でもなく、探偵でもない。そんな男が主人公だ。
実に70年代的というか、TVムーヴィーのようなティスト。それでいて制作されたのは85年。
どれをとっても、中途半端。しかし、アシュビー演出は、本作までのフィルモグラフィーから考えても、中々どうして、独特のムードを放つ人間ドラマが多い。
本作も、得も言えぬムードが漂い、独特の雰囲気が漂う。登場人物の誰もが、どこか単純ながら、自分の人生に必死。
クールでなく、思い込み型の格好付け人間だったり、単純に弱かったりと『人間』として、誰もが、そこいらにいる普通の存在。それが元刑事や犯罪者、売春婦という、一般的な職業ではないということの差異。
ヒーローでもなく、ダーティー・ヒーローでもないという、「アメリカン・ニュー・シネマ」以降の、TVに押されて、ヴェトナムで負けた、当時の映画の世相を反映しているともいえる。
ハル・アシュビー監督の独特のタッチと雰囲気に酔うことが出来なければ、何てことない作品ではある。