スタッフ
監督: バズ・キューリック
製作: モード・エンゲルバーグ
脚本: ピーター・ハイアムズ、テッド・レイトン
撮影: フレッド・ケーネカンプ
音楽: ミッシェル・ルグラン
キャスト
ソーソン / スティーヴ・マックィーン
ブレメンタル / イーライ・ウォラック
ストロング保安官 / ベン・ジョンソン
ドティ / キャスリン・ハロルド
プライス / レヴァー・バートン
スポタ / リチャード・ベンチャー
メイソン / トレーシー・ウォルター
ブルー / テオドール・ウィルソン
ベルナルド / トム・ロゼールス
日本公開: 1980年
製作国: アメリカ ラスター・プロ作品
配給: CIC
あらすじとコメント
今回もご贔屓監督のひとり、ピーター・ハイアムズ繋がり。しかし、今回は監督ではなく、脚本にだけ参加した映画にしてみた。主演は、最後の「銀幕のスター」スティーヴ・マックィーンである。
アメリカ、ロサンゼルス。「賞金稼ぎ」の通称“パパ”ことソーソン(スティーヴ・マックィーン)は、仮釈放中に行方をくらましたプライス(レヴァー・バートン)を、とある南西部の地方都市で捕獲した。
その足で、別な逃走犯を拿捕するべくプライスを連れたまま、ヒューストンへ向った。情報と協力を求めるべく地元のストロング保安官(ベン・ジョンソン)を訪ねるソーソン。しかし、保安官は、逃走犯の名前を聞いて顔色を変えた。「何も尋かずに、すぐこの街から立ち去れ」訝しがるソーソンに、保安官は拳銃を抜いた。
「ソイツは、俺の親戚だ」・・・
実在の賞金稼ぎの日常を追うアクション・ドラマ。
『賞金稼ぎ』とは、警察官以外で、依頼を受けた一般人が逃走中の人間を捕獲し、依頼主や官憲に引渡し、金を貰う職業を指す。
映画は冒頭、この職業が1872年に最高裁で上記のような判決が結審なされた『合法的諸職業』であるとのテロップが流れる。そして、本作の主人公の登場である。
しかも、彼は実在の人物。何と大学で犯罪学を専攻し、牧師の免許まで持つ人物であり、当時、アメリカで『最後の賞金稼ぎ』と呼ばれていた人物でもある。実際に、本作にもバーテン役でチョイ役で出演している。
だが、映画では、かなりカリカチュアされた描かれ方をする。冒頭、いきなり車の運転が下手くそで、縦列駐車では前後の車にぶつけるは、Uターンするにも、一々、歩道に乗り上げて歩行者の顰蹙を買うという出だし。しかも、喧嘩も滅法弱いという設定であり、常に相手にのされそうになる。
そんな役柄をA級ライセンスまで持つ、カー・マニアにして、大スターであるスティーヴ・マックィーンが演じる妙味。
更に、彼自身が一躍有名なったのはTVシリーズの「拳銃無宿」であり、そこでの設定がまさに「賞金稼ぎ」である。つまり、当時の観客は、派手で力強いアクション映画だと想像した人間が圧倒的。
しかし、まさにその逆を見せる作劇。本作の主人公は全米を駆け回るので、留守がちの自宅には、訳ありの人間たちが常にたむろしカード・ゲームに興じ、8年も付き合って妊娠までさせて同棲している小学校教師の恋人は、無痛分娩で子供を産みたいので、それには男の協力が必要だと、「ラマーズ法」セミナーに、無理矢理主人公を参加させようとしたりと、常にどこかコメディ・タッチで進行して行く。
西部劇などで登場する、タフなイメージではなく、あくまで慈悲深いが、どこか子供臭さが抜けないという、ごく普通の人間として描いていく。
当時、既にマックィーンは癌に犯されており、自分の余命を知っていたとも言われている。それでも、彼は終盤、体を張った体当たりアクションをこなし、観客の興奮を盛上げる。
しかし、往年の鋭さなり、機敏さはない。実際、本作が日本公開されたときには、既に彼は死亡していた。最後の「銀幕の大スター」が、肩の力の抜けた演技で、大都会でない田舎町ばかりに出向いて進行する物語が、どこか万感迫るものがある。
更には、ここで紹介したロバー ト・デ・ニーロ主演の傑作「ミッドナイト・ラン」(1988)と共に、CGなどに頼らない、人間ドラマ、アクション、コメディという往年のアメリカ映画の終焉に立ち合ったような感慨に陥る渋い作品。