スタッフ
監督:ロナルド・ニーム
製作:アーウィン・アレン
脚本:スターリング・シリファント、ウェンデル・メイズ
撮影:ハロルド・E・スタイン
音楽:ジョン・ウィリアムズ
キャスト
スコット / ジーン・ハックマン
ロゴ / アーネスト・ボーグナイン
マーティン / レッド・バトンズ
ノニー / キャロル・リンレイ
エイカース / ロデシ・マクドゥール
リンダ / ステラ・スティーヴンス
ベル / シェリー・ウンタース
ローゼン / ジャック・アルバートソン
船長 / レスリー・ニールセン
日本公開: 1973年
製作国: アメリカ 20世紀フォックス作品
配給: 20世紀フォックス
あらすじとコメント
前回扱った「偽将軍」(1958)で、絶妙のコメディ・リリーフを披露した名脇役レッド・バトンズ。そんな彼が、いかにもという印象深い演技を披露したパニック映画の大作にしてみた。当時流行ったパニック映画の火付け役となった作品にして佳作。
地中海洋上。NYからギリシャに向かう豪華客船「ポセイドン号」。乗客には、革新的な牧師スコット(ジーン・ハックマン)、NY市警のロゴ警部(アーネスト・ボーグナイン)と元売春婦の妻リンダ(ステラ・スティーヴンス)、気の良い雑貨商マーティン(レッド・バトンズ)らがいた。
航海途上の大晦日、盛大な年越しのパーティーが行われたいた。だが、ギリシャのクレタ島沖で巨大海底地震が起き、津波に厳重注意との報が入る。すぐ直後、巨大津波がポセイドン号めがけて来襲してきた。
ポセイドン号は船底の荷物が少なく上部が重いという不安定な状態であった。
このまま直撃を受けては転覆してしまう・・・
着想勝利のデザスター映画の佳作。
上部が重く下部が軽いという、不安定な状況で航海を続ける豪華客船。船長はそのことを心配し、対応をしようとするが、乗船している船主が運航の遅れを楯に拒否し、更にスピードを上げるように指示。
まさしくタイタニックを想定したものだとは容易に想像がつく。だが、本作の白眉は、そんなタイタニックからの逆転の発想。単純に沈没ではなく、大津波を喰らい、まさしく上下が逆転した船内からの決死の脱出行というストーリィ。
要は下へ下へと上がっていくのだ。床が天井になり、天井を歩いて行くというそれまでに見たことがない画面が連続する。
作劇としては、パーティーが行われているボール・ルームが上下逆転していく様を阿鼻叫喚図と共に見せ付けて来る。不安定な海上ゆえ固定されたテーブルやイスが天井になり、乗客たちが落下する。
まさしく今まで見たことのない画面だ。当時、その迫力に驚いた。多くの犠牲者や怪我人がでた中、救援隊が来るまでこの場に留まるように命じる客室チーフに反対し、救助は船底から来るから、そこまで行って、待った方が得策だと叫ぶ主人公。破天荒な性格ゆえ左遷させられた設定が生きて来る。
そんな主人公に追従して行く人々も個性的な面々だ。喧嘩したり、助け合ったりする中、犠牲者がでていくという、まさしく王道の展開。しかし、すべてが逆転の世界で描かれるという不安定感と違和感も共存する。
だが、物語としては天地逆転した船内を動き回るということに重点を置き過ぎて、そこまでして船底を目指しても、間違いなく辿りついた場所に救助隊が来る保証はない。
それなのに、決死行を繰り広げるという点や、途中で、別な集団に出会うが、そこからは同行する人間はひとりもでてこないといった、映画化するにあたって端折った部分にも、多少、興味を削がれた。
それでも、逆に無理してストーリィを広げないことによって、単一行動をとる小集団に襲いかかる悲劇という人間ドラマに厚みがでたとも感じる。
始めこそ、パーティーゆえに正装していた人間たちが、汚れていくという解りやすい生存欲や、神頼みよりも、先ず行動であるという逆説的比喩が際立っていく。
リーダーは行動派の異端牧師だが、あまりにも強烈なる個性ゆえに、犠牲者を増長させているとも感じた。ある意味、宗教的価値観の相違からだろうか。どこか、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のような危うさも体感したのだが。
様々な登場人物たちを演じる俳優陣も適材適所で興味深い。主役のハックマンは、前年「フレンチ・コネクション」(1971)でアカデミー主演男優賞を受賞し、脂の乗った時期だし、他にもアカデミー賞を受賞したヴェテランが数多く出演し、以後の「パニック映画」と呼ばれる大作群にはずみを付けた。
尤も、この時代のオールスターによるパニック映画の走りは「大空港」(1970)。
ハリウッド映画はTVやアメリカン・ニュー・シネマに押され斜陽産業として認知されていたが、「大空港」で、これぞ映画の醍醐味と再生し、以後、大作が続々と輩出されていった。
当然、玉石混合なのであるが、本作はそんな中でも、光り輝く作品である。