スタッフ
監督:ジョセフ・サージェント
製作:ガブリエル・カツカ、エドガー・J・シェリック
脚本:ピーター・ストーン
撮影:オーエン・ロイズマン
音楽:デヴィッド・シャイア
キャスト
ガーバー / ウォルター・マッソー
ブルー / ロバート・ショー
グリーン / マーティン・バルサム
グレイ / ヘクター・エリゾンド
ブラウン / アール・ハインドマン
ドイル / ジェームス・ブロデリック
パトローン / ジェリー・スティラー
市長 / リー・ウォーレス
キャズ / トム・ペディ
日本公開: 1975年
製作国: アメリカ パロマー&パラディウム・プロ作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
またもやニューヨークの地下鉄つながり。大掛かりで派手なアクションや大スターが出演している訳ではない。だが、面白い着想と素晴らしい展開で傑作に仕上がった逸品。
アメリカ、ニューヨーク。地下鉄IRT線、ペラム発サウス・フェリー行。大きな荷物を持った男たち三人が、次々と停車駅から乗り込んできた。帽子に眼鏡、口ひげを生やしコート姿という同じ服装だ。列車が28丁目駅に着いたとき、やはり同じ格好の男が運転席を塞ぐように立った。彼の名はブルー(ロバート・ショー)。「邪魔だ」という運転手に銃を向けた。「ロックをはずして仲間をそこへ入れろ」指示に従うとグリーン(マーティン・バルサム)が入ってきた。真ん中の車両にいた新人車掌も人質にすると、四人が先頭車両に集まり、荷物を解くとマシンガンを取りだした。「諸君はたった今人質になった。協力すればすぐに開放されるだろうが、反抗すれば容赦なく射殺する」ブルーがそういうと、運転手に命じ列車を途中で止めさせた。
管制センターでは突然の運行ストップに混乱をきたす。すぐにブルーたちは先頭車両のみを切り離すと、運転手に後部車両の乗客を連れグランド・セントラル駅へ戻るよう命令。運行掲示板でそのことを知ったセンターの職員たちは意味が解らず、混乱の度合いが広がっていく。やがて、センターに連絡が来た。「我々はこの列車を乗っ取った。人質は18人。市に対し1000万ドルを要求する」
それを聞いた公安局のガーバー警部補(ウォルター・マッソー)は耳を疑った。前代未聞のことだったからだ。すぐに各方面に伝達がなされるが誰も俄かには信じなかった。何故なら、地下内では出入口を塞げば、脱出が不可能だと思っていたからだ。
そんな中、グランド・セントラル駅の主任が、周囲の忠告に耳を貸さず、車両に近付いていった。その瞬間・・・
身近な乗り物が恐怖へと変わる姿を描くとても良く出来た作品。
着想勝利の典型作でもある。今までありそうでなかった題材。飛行機や車といった自由にどこでも行ける乗り物ではない。しかも地上でなく地下の線路の上を走るので、出口を塞げば逃亡できない。その上、『死人のブレーキ』という操縦桿に運転手の体重がかかっていないと自動的に止まる装置までついている。
そんな地下鉄を乗っ取ってどうしようというのか。犯人たちの真意が見えぬので混乱をきたす地下鉄運行係や公安局の狼狽振りが面白い。更に、前代未聞の乗っ取りに、やはり上手い対処を見いだせない警察。また、身代金の支払いを要求されるのは支持率の低下に悩む優柔不断な市長。人質の乗客たちも、英語をまったく理解しないラテン系や酔っ払いのオバサン、黒人のヒモなど、個性派揃いだ。
そんな中、悠然と対応する確信犯の犯人たち。お互いの名前を「ブルー」、「グリーン」などと眼の色で呼び、全員が帽子や眼鏡などで変装している。しかし、彼らとて鉄の結束ではない。そんな中で虚々実々の駆け引きが展開されて行く。
的を得たキャスティングと軽妙な演出が絶妙に絡み合う。特に主役を演じたウォルター・マッソーの見事さといったら。派手なチェックのシャツに黄色いネクタイ。冒頭は、仕事がなく、暇な彼が東京から視察に来た地下鉄の重役たちにNYの地下鉄システムを説明するといったのんきな展開を見せる。だが、そのシーンは観客に事件が起きた後、混乱しないように作られているのだ。
しかも、面白いのはアメリカ人の日本人観の典型である眼鏡にカメラを首からぶら下げ、英語を理解できないであろうと思わせておいて、笑えるオチがついてくる。こういうときのマッソーのコメディ演技は白眉である。ゆえに、ラストのオチは彼でなければこれほど面白い作品にはなり得なかったと確信させられる。
映画は地下鉄が乗っ取られてから、実にサスペンスフルな展開を見せるが、マッソーや気弱な市長というコメディ・リリーフを配したことで、見事なる緩急の間を産みだしている。
こういったサイト等で前もって、ある程度の知識を得てから見ると期待外れだったとか、また、展開の先読みをしたり、アラ探ししたりする御仁もおられるだろう。
しかし、それでも、本作は充分に面白い。チャンスがあれば是非ご覧ください。
筆者が心底おススメできる映画の一本。