オリーヴの下に平和はない – NON C’E PACE TRA GLI ULIVI(1950年)

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スタッフ
監督:ジュゼッペ・デ・サンティス
製作:ドミニコ・フォルジェス・ダヴァンツァーティ
脚本:ジュゼッペ・デ・サンティス、ジャンニ・プッチーニ
撮影:ピエロ・パルタルーピ
音楽:ゴッフレード・パトラッシ

キャスト
ドミニチ / ラフ・ヴァローネ
ルチア / ルチア・ボゼー
ボンフィリオ / フォルコ・ルッリ
マリア・グラツィア / マリア・グラツィア・フランチャ
カプアーノ / ダンテ・マッジオ
監督官 / ミケーレ・リッカルディーニ
ドミニチの弁護人 / ヴィンチェンツォ・タラーリコ
ベルタレッリ / ピエトロ・トルディ
ナレーション / ジュゼッペ・デ・サンティス

日本公開: 1954年
製作国: イタリア ルクス作品
配給: イタリフィルム、松竹洋画部


あらすじとコメント

イタリアの俳優ラフ・ヴァローネ主演作で続ける。見た目はゴツくタフな感じなのだが、今回は虐げられ裏切られる復員兵を演じる。重さが勝る社会派ドラマ。

イタリア、チョッチャリア

荒涼たる丘陵地帯にある村。そこは全員が羊飼いとして暮らしているが、その中に戦争で捕虜となり、3年振りに帰郷した28歳になるドミニチ(ラフ・ヴァローネ)がいた。

彼は両親と17歳の妹の4人家族だが、帰郷前の混乱時に、村一番の支配者であるボンフィリオ(フォルコ・ルリ)に羊を全頭盗まれていた。残っていた家族は嘆くばかりであるが、これでは生活が出来ない。

だが、ボンフィリオが羊の群れを盗むのを見たという元恋人ルチア(ルチア・ボゼー)の話を聞き、力付くで取り戻そうと考える。しかもルチアは両親の借金のため、親から折檻までされてボンフィリオとの結婚を決められていた。

それも気に食わないドミニチ。彼は家族を説得し、夜中に羊を奪いに行くが、翌日、警察が来て逮捕されてしまう・・・

虐げられた弱者の反撃を描く社会派ドラマ。

舞台となるのはイタリア中部にある荒れた土地。冬になると羊飼いたちは一斉に群れを引き連れ、海の近くにある牧草地まで移動をする。それ以外では若干のオリーヴ栽培しかない荒地。

当然、飼っている羊の頭数によって地位が変わる。主人公は自分がいない間に盗まれた羊を取り戻すのは犯罪ではないと考える。

しかし、当然、その理屈は通らず逮捕され裁判となる展開なのだが、冒頭、デ・サンティス監督自身のナレーションにより、その特異な地域性ゆえの住人気質が説明される。「他人を信じず、嫉妬深く、気性が激しい。そして他人には冷徹だが、自分にも厳しい」と。

本作のすべてを物語るものである。主人公は弁護士費用もないので官選弁護人に頼りざる得ないのに対して、支配者は金で有力弁護人を雇い、しかも村人たちに金を握らせたり、脅迫までして自分に有利な証言をさせる男。

しかし、閉鎖的な場所では、それが罷り通るというか、そうせざるを得ないのである。

主人公が唯一、頼りにしていたのは元恋人の目撃証言。だが、折檻までする両親と許婚者でもある支配者に屈しざるを得なかった。

結果、有罪収監となるのだが、妹が支配者に強姦されていたことから脱獄してでも復讐をしようという展開になる。

本作はネオ・リアリズモの流れを汲む作品であり、虐げられた弱者と特権階級を気取る強欲な支配者に対する怒りと、その反動である。

無学だが正直者。ただし、それだけでは人生はままならない。かといって直情的に動けば犯罪者になり、弱者の正論など取るに足らないと、とても分かりやすく見せてくる。

しかも弱者の勝利などあり得ないと描く冷徹さもある。だからこそ同じ価値観の仲間を参集させ自分らで時代のうねりを生みだそうとも思える進行。

要は社会主義啓蒙作品であり、しかもイタリア本土内で歴史上、様々な国に支配されてきた場所という特異性も加味される。

この地を舞台にした作品は社会派ドラマの佳作で、第二次大戦下、同盟国ドイツの統制下に入った時期に壮絶で悲惨な運命を辿る母子を描いたソフィア・ローレン主演の「ふたりの女」(1960)がある。

やはり荒涼とした貧しい地帯であり、イタリア人からも「チョッチャリア」と言えば、貧乏人の代名詞としての差別用語として使われた、と。

そういった場所が舞台となればハッピー・エンドはあり得ず、かなり苦い後味の作品。

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