波止場の弾痕 – POOL OF LONDON (1951年)

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スタッフ
監督:バジル・ディアディン
製作:マイケル・バルコン
脚本:ジャック・ウィッティンガム、ライオネル・アルドリッジ
撮影:ゴードン・ダインズ、ライオネル・バーンズ
音楽:ジョン・アディスン

キャスト
マクドナルド / ボナー・コレアーノ
パット / スーザン・ショウ
サリー / ルネ・アシャーソン
ジョニー / アール・キャメロン
メイシー / セーラ・リスター
パメラ / ジョアン・ダウリング
ヴァーノン / マックス・エイドリアン
トロッター / ジェームス・ロバートソン・ジャスティス
アンドリュース / マイケル・ゴールデン

日本公開: 1952年
製作国: イギリス、アーサー・ランク作品
配給: BCFC、NCC


あらすじとコメント

今回も製作者マイケル・バルコンが提唱した作劇法を存分に発揮した、ロンドン・ロケが非常に印象的な作品。

イギリス、ロンドン。とある土曜早朝、貨物船「ダンバー」号が、テムズ河岸壁に接岸した。荷降ろし、集荷で3日間滞在するので、乗組員たちに休暇がでた。

その中に、ちょっとした小遣稼ぎになるからと、多少のヤバいことなど平気とばかり、麻薬入の煙草を密かに持ちだそうとしている船員マクドナルド(ボナー・コレアーノ)がいた。しかし、彼は自身で持ちだすよりも、自分を兄貴として慕う黒人で、人当りの良いジョニー(アール・キャメロン)に渡した方がトラブル防止になると踏んだ。

何も知らないジョニーは依頼されるまま、何ら疑い持たずナイトクラブに出演している軽業師ヴァーノン(マックス・エイドリアン)に届けに行って・・・

これぞ『バルコン・タッチ』の勝利と呼べる犯罪映画の秀作。

イギリス映画特有の「セミ・ドキュメンタリー・タッチ」。それに「劇映画」の要素を加え、独特のタッチの作品に仕上げる。

そんなアイディアを思い付いた製作者マイケル・バルコン率いる「イーリング・スタジオ」が、世に送りだした映画群を総称して『バルコン・タッチ』と呼ぶ。

本作は、その手法が十二分に発揮された作品である。

ストーリィとしては、トッポい船員が、深く考えずに自分を慕う黒人青年に麻薬の運び屋を依頼したことから、自分自身にとんでもない災難が「因果応報」的に跳ね返ってくるという内容。

その三日間の出来事をテムズ河岸壁、ロンドン・ブリッジ、サウス・ワーク大寺院といった界隈を縦横無尽にロケし、各々の登場人物たちに起きる出来事をキッチリと描いていく。

ロケ撮影の魅力を最大限に生かしたカメラ・ワーク。強烈な照明によって浮かび上がる、白黒の見事なる陰影の付いた画面。ヒッチコックからの影響も感じられる『最大から最小へ』と意表を突くカット割。そして、大きくは動かない微妙な移動撮影。

そのどれをとっても、絶頂期のイギリス映画の良い所が凝縮されている。ストーリィも、主人公の小生意気そうな船員が、実は真面目な小市民であり、自分を慕う黒人青年が知らないうちに犯罪に巻き込まれそうになると、必死に探そうとしたり、かつての恋人の情けにほだされるといった感情移入しやすい設定になっている。

他にも姉妹の軋轢や、軽業師ゆえの犯罪計画、それが露呈してからの刑事ドラマ的進行と、起伏に富んだ展開を見せる。

それでいて1時間半の上映時間という、見る側が飽きる前にテンポ良く進み、ふとしたワンカットによるサスペンスや、わざと少しのんびりとした展開のシーンなど、緩急が付いていて、実に楽しい。

要は、クライム、恋愛、カーチェイスといった娯楽的要素が散りばめられた作品。

本作の存在は30年以上も前から知っていた。見たくてしょうがなかった作品でもある。それが、イギリスでDVD発売され、何ら躊躇なく購入した。当然、字幕なしのDVDによる鑑賞なので、大きなスクリーンで、字幕付きで見たら、さらに違う感動があるだろうとも感じた。

昨今のCGや、こちらが追いつけないほどの急展開にして長尺の映画とは明らかに違うので、まったく、まどこっしいノンビリとした映画で、一体、何が面白いのかという人も当然いよう。

それはそれで構わない。しかし、本作を見て、自分が若かりしき頃の興奮を喚起させ、胸躍らされる類の映画を持っていることは、人生の幸せのひとつであると痛感させてくれた作品でもある。

余談雑談 2013年1月19日
政権が代わって、このところ円安だ。 何も、世界経済や日本の先行きを語るつもりはない。単純に、個人的に輸入盤DVDが買いにくくなったことが悩みの種。 そんなことを言いつつも、安酒場通いは欠かさない。きっと、映画よりも飲酒が大事な人生になったの