恋文                 昭和28年(1953年)

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スタッフ
監督:田中絹代
製作:水島一朗
脚本:木下恵介
撮影:鈴木博
音楽:斉藤一郎

キャスト
真弓礼吉 / 森雅之
久保田道子 / 久我美子
山路直人 / 宇野重吉
真弓洋 / 道三重三
真弓の母 / 夏川静江
保子 / 香川京子
下宿のおばさん / 入江たか子
とんかつ屋の女将 / 花井蘭子
日比谷公園の女 / 中北千枝子
レストランの客 / 小津安二郎、木下恵介

製作国: 日本 新東宝作品
配給: 新東宝


あらすじとコメント

田中絹代。日本を代表する女優のひとりだが、実は監督業もこなした。そんな彼女の第一回監督作品で、戦争に翻弄された人間を描くメロドラマ。

東京戦後数年が経った頃。復員してきた真弓(森雅之)は、弟の洋(道三重三)のアパートに転がり込み、時折、弟から依頼がある洋書の翻訳で、何とか生きていた。

そんな真弓には、忘れられない女性がいた。故郷、八日町で幼少のころから知っていた久保田道子(久我美子)である。しかし、道子は親の薦めで意に沿わぬ結婚をし、その夫を戦争で亡くしていた。しかも嫁ぐ寸前に、彼宛に以前より好意があった旨の恋文を送っていた。

その恋文を後生大事に持ち続け、復員後、未亡人となり、東京にでて来たと風聞した道子の姿を探す毎日であった。

そんな真弓は、偶然、渋谷で以前、兵学校の同期で親友の山路(宇野重吉)と再会する。山路は現在、恋文横丁でアメリカ兵相手に、売春婦の恋文を翻訳して書く代書屋を営んでいた。真弓自身も英語とフランス語には覚えがある。

山路は早速、彼を引き入れた。そんなある日・・・

戦争によって翻弄された人間たちを描くメロドラマ。

お互いに恋心を抱きつつ、結ばれずに戦後を迎えた男女。お互いを繋ぐのは、たった一通の恋文。

現在とは、全く違う価値観があり、個人の自由意志など尊重されない。というよりも、そんな自由を願うだけで、眼の仇にされた時代。

一転、戦後はアメリカの指導により、自由を謳歌できるようにはなったが、以前からの男尊女卑の思想は、受け継がれている。

当然、多くの人々は、一朝一夕に価値感など変えられなかったことだろう。誰もが混乱しつつ生きる日常。

ある意味で思想や価値観の「ごった煮」状態である。しかも生きていくためには、自由に職業を選べる状況でもない。

そんな時代。主人公の男は、一途と言えば聞こえが良いが、恋文をもらった女性の後を追いかけて上京したような男で、まるでストーカーである。

その証拠に、思い込んだら信念とばかりに、5年も、その相手を漠然と探し求めているのだ。一方の女性は、戦争中に恋文を送るようなタイプである。しかも、男を翻弄させるような内容を、である。

そんな主人公が、戦後派の申し子でありながら人情に厚い弟や、どこか世捨て人のようでありながら気骨ある友人に囲まれつつ、女性を追う。

場所は、アメリカ兵相手の売春婦がラブレターを依頼する場所。

以後の展開は想像に難くない。事実、その通りの進行になり、皆が思い悩む展開になって行く。誰もが、戦争の犠牲者だと言わんばかりである。

時代を考えれば当然の内容である。ただ、本作の興味深い点は、当時の東京のあちらこちらの風景である。銀座の和光、ビルなど一つもない渋谷ハチ公前、そして渋谷に実在した『恋文横丁』。それも、もはや、瓦礫などなく、復興著しい新都である東京。

また、田中の監督第一作ということで、脚本は木下恵介が書き、演出術など知らない彼女のために、小津安二郎、成瀬巳喜男、溝口健二といった巨匠たちが、喜んで助言を与えたという。しかも小津と木下は、チョイ役ながら画面にも登場している。ある意味、「お宝映像」かもしれぬ。

ただし、彼らの助言が生きているかどうかは判断が分かれようか。それでも巨匠たちに愛されて来た女優だからこそ、本能的に嗅ぎ取っているところもあると感じる。

戦争によって翻弄された市井の人間たちが、贖罪の念を抱きつつ、且つ、旧態依然とした価値観を引き擦りながら生きていく。並大抵のことではないだろう。

生きるために割り切った代表格としての売春婦たち。そんな彼女たちに、魂まで売り飛ばしたと侮蔑の念を投げかける人間もいる。しかし、それこそが自由であり、ゆえに苦痛をも増幅させる。

取り残され、取り憑かれた人間に一筋の光明を投げかけるラストに、少しだけ心が緩んだ。

余談雑談 2017年4月4日
今回の都々逸。「桃が咲こうが桜が咲こが やっぱり逢えない日が続く」あちらこちらから桜の開花が聞こえ、東京は「満開宣言」が出た。しかし、満開になれば散るのが桜。確かに、風に吹かれて舞い上がる花びらは美しい。そこに、潔くというか、散り際の美学と...