スタッフ
監督:岡本喜八
製作:田中友幸、三輪禮二
脚本:橋本忍
撮影:村井博
音楽:佐藤勝
キャスト
新納鶴千代 / 三船敏郎
栗原栄之助 / 小林桂樹
星野監物 / 伊藤雄之助
井伊直弼 / 松本幸四郎
菊 / 新珠三千代
みつ / 八千草薫
木曽屋政五郎 / 東野英治郎
増位惚兵衛 / 平田昭彦
八重 / 田村奈己
つる / 杉村春子
製作国: 日本 東宝、三船プロ作品
配給: 東宝
あらすじとコメント
歴史上の事件を斬新な見地から描いた原作をスタイリッシュな映像で見せる佳作。
万延元年ぺリーの黒船来訪以降、300年に渡る徳川幕府に暗雲が立ち込めていた時期。時の大老、井伊直弼(松本幸四郎)が『安政の大獄』を断行した。
その所為で、水戸藩士らが井伊の暗殺を企てていた。首謀者は星野(伊藤雄之助)で、その中に、倒幕派の藩士ではない新納(三船敏郎)と栗原(小林桂樹)がいた。
実行の時期をうかがう星野は、井伊側に情報が洩れている節があり、仲間の中に密通者がいると判断する。
そして、疑惑の眼は新納と栗原に向けられた・・・
『桜田門外の変』までを見事に描く時代劇の佳作。
主人公はズバリ「侍」である。ただ、妾腹の息子ゆえ、父親の存在を知らずに育った。だが、母親と顔見知りの豪商の男に助けられ、文武両刀として成長したが、とある色恋沙汰から、浪人へと転落していった。そして、討幕派に参加。
もうひとりの侍。彼は美しい妻と中流以上の生活を送っている。そして、彼は主人公とは違い、書物に勤しみ、日本はグローバル化しなければ滅びるという見地からの参加である。
その二人は水と油の性格にして、何故か親友と相成る。しかし、水戸藩士たちから見れば「門外漢」なのだ。だが、その両名とも腕が立つ。そこに疑惑である。
しかし、誰が密通者であるかという謎解きよりも、主人公の生い立ちから現在の立場がメイ ンで描かれていく。
その一方で、虎視眈々と井伊大老暗殺の時期を窺う水戸藩士らが策謀を巡らす場面が、実に小気味良いカッティングで紡がれていく。
桜田門付近の大掛かりなセット、江戸の街角、豪商の屋敷内部など、実に見事で息を飲む。
そして役者陣の見事さ。日本映画の底力を痛感させてくれる。
しかも、岡本演出も冴えに冴え、縦横無尽で、意表を突く画面構成。何せ、わざと黒い雪を降らせたり、伊井大老の乗る籠をラグビー・ボールと位置付け、守る行列側と攻める水戸藩主らにラグビーのフォーメーションで戦わせて行く。
それを、ほぼ完璧なる緩急の付いたカット割 と編集のダイナミックなリズム感で盛上げていく。
当時、映画界の天皇としての地位を、既に不動のものにしていた黒澤明作品と、ほぼ、同じキャスト。当然、黒澤映画と比較されるのを承知の上で、自分なりの見事なる世界を構築している作劇。
制作会社が同じなので、作品のトーン自体が、どこか同じような印象を受ける。だが、完全に黒澤作品とは一線を画している。
しかし、作品の完成度としては、遜色はないと感じた。惜しむらくは、三船敏郎が主宰していた『三船プロ』が製作に関与しているので、三船の取扱いに苦心した感は否めない。
つまり、主人公の年齢設定に、三船自身が見えないのだ。しかし、それでも三船は力演であるし、首謀役の伊藤雄之助の底冷えのする演技や、実に味わい深い演技を披露する東野英治郎、そして、岡本作品の常連である、ほぼ無名の脇役陣に至るまで、流石と唸った。
時代劇の終焉を向かえる時期の作品にして、監督の心意気と、作品を影から支えるスタッフたちの精魂が溢れでて、日本映画界の黄昏の最後のきらめきを感じさせる作品。


