スタッフ
監督:成瀬己喜男
製作:藤本真澄、金子正且
脚本:井出俊郎
撮影:福沢康道
音楽:林光
キャスト
田代勲 / 小林桂樹
〃 雅子 / 新珠三千代
〃 栄子 / 長岡輝子
杉本隆吉 / 三橋達也
〃 さゆり/ 若林映子
加藤弓子 / 草笛光子
バーのマスター / 加東大介
平井社長 / 十朱久雄
黒岩 / 藤木悠
〃 千代子 / 中北千枝子
製作国: 日本 東宝
配給: 東宝
あらすじとコメント
日本におけるミステリー映画。小説が原作というのも多いジャンルで、今回は海外作家の翻訳モノを取り上げる。女性心理を描く内容で、監督は『女性』を撮らせたら天下一品の成瀬己喜男。意外な気もするが、そこかしこに成瀬イズムを感じる作品。
今回は「ネタバレ」ありなので未見の人は閲覧注意です。
東京、赤坂
出版社に勤める田代(小林桂樹)が周囲を気にしながら歩いている。やがて行きつけの店に入りビールを飲んでいると杉本(三橋達也)が外から彼を認め、中に入って来て一緒にやろうと笑った。
彼らは20年来の友人で二人とも結婚しており、住居はお互いに鎌倉である。そのまま飲んで二人は電車で帰宅するが、杉本に一本の連絡が入る。彼の妻が赤坂のアパートで死体で発見されたと。
その情報を聞いた田代は・・・
人妻の絞殺事件から発生するおぞましい人間ドラマ。
親友二人。互いに家族同士で交流がある。主人公は清楚な妻と子供二人に母親と同居。一方は美人でセクシーな妻と二人暮らし。
そのセクシーな妻が殺害されたのだ。発見されたのは友人女性のアパート。どうやら情事の最中の出来事らしい。
とはいっても犯人探しの謎解きミステリーではなく、冒頭から真犯人の予想は付く進行。
要は真犯人の心理描写がメインとなり、以後、良心の呵責から徐々に神経を病んでいき、周囲を巻き込んでいく展開。
ズバリ犯人は主人公である。先ず社内や水商売の相手ではなく親友の奥方を選ぶ性格が気になる。しかも性的興奮のために絞首。そして放置し罪悪感もあろうが、まさか親友の会社近くの店で見つけてくれとばかりにビールを飲む神経も解せない。
そんな真犯人に最初に気付くのが、逢瀬のために部屋を貸した知人女性。ありがちではあるが主人公と人妻を目撃していて、それを最初に告げるのが親友の亭主。それは理解出来るが、そこで親友が主人公を信用しきっており、あり得ないと完全否定。
しかも独りぼっちになったからか、主人公宅に遊びに来て子供たちを我が子のように可愛いがる。だから妻を寝取られるのかと、どうにもむず痒いタイプにも感じる。
しかし監督は女性映画の名手成瀬己喜男。男の描き方は脆弱で身勝手でどこかノー天気な存在として冷めた視線で描かれることが多い。
なので本作の主役は、途中から完全に主人公の妻にシフトしていく。しかも身勝手な主人公は妻に懺悔の告白。そこでヒロインに心情変化が起きて行くのだ。
段々と自分自身を追い詰め神経衰弱になった男は親友にも自白してしまう。続けて、好きなだけ殴ってくれ、自分は最低の男だと言い放つ。自分の気持ちがラクになるからと。
薄っぺらな男ゆえの性。自分は良心があるという詭弁を自己暗示で通そうとするのはいかにも成瀬が好んで描いてきた男性像。だが、本作で異質なのは親友に妻を殺害された男の立振る舞い。
神なのかと首をひねってしまった。しかし、それら男性はやはり脇役なのだ。あくまでヒロインの『女の中にいる他人』が怖いと感じさせてくる。
時代性もあり台詞廻しも口語体ではなく違和が残るし、大ドンデン返しでもなく想定内に着地していく。
それでもミステリー・サスペンスを際立たせようと、冒頭で路上喫煙をしようと火をつけた煙草を口から放した瞬間に、ビールの大ジョッキが置かれた卓上の灰皿に置くショットに代わっているというヒッチコック張りの手法や、亭主の殺害を知ってから以降ヒロインの顔の半分にしか照明が当たらないという不気味さと不安定さを際立たせ、結果誰もが闇を抱えているという印象で盛り上げる。
しかもラストのラストでヒロインに陽光を当てるという、実にイヤらしいショットが登場してきて鳥肌が立った。そこに白でなく黒文字で「終」が浮かぶ。
成瀬の性格を感じる。ただし、主役の小林桂樹と親友役の三橋達也が両名ともミスキャスト。二名とも力演で熱演であるだけに落ち着かない印象が続く。
尤も、それすら成瀬の掌中であるとも受け取れるし、逆にヒロイン役で動き自体は少ない新珠三千代の微妙な顔つきとか仕草の変化で別な個性を際立たせるのは流石。
これが成瀬作品でなかったら途中棄権するかもしれないと思うと流石とも思わせる作品。


