出張   平成1年(1989年)

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スタッフ
監督:沖島勲
製作:神原寛
脚本:沖島勲
撮影:大津幸四郎
音楽:山崎宏

キャスト
熊井功 / 石橋蓮司
ゲリラ隊長 / 原田芳雄
ゲリラ副隊長 / 志賀圭二郎
隊員1 / 鈴木幸嗣
女性隊員 / 野呂瀬初美
飲み屋の女1 / 亜湖
飲み屋の女2 / 松井千佳
百姓 / 常田富士男
熊井玲子 / 松尾嘉代
部長(声) / 佐藤慶

製作国: 日本 URBAN21作品
配給: アーバン21


あらすじとコメント

侘しさと寂しさが全編を通して漂う、昭和から平成に元号が移った年に公開されたシュールなコメディ作品。

山形、上ノ山コンピュータ会社に勤務する営業課長の熊井(石橋蓮司)は、奥羽本線で山形支店への出張途中に落石事故の影響で足止めを喰らってしまった。バスによる振替え輸送も目途が立たず、あきらめて、かろうじてバスは通っている山奥にある寂れた温泉に一泊することに決める。

古びた旅館ながら温泉は最高で、思わぬ褒美だとご満悦になる熊井。物はついでと外出し、町外れのいかにも場末の飲み屋に入った。そこは美人二人が共同経営する店で痛飲した彼は、結局、美女の家に行き、何と二人共々関係を持ってしまう。

夢気分のまま、翌朝バス停に戻ろうとすると山の中から謎の音が聞こえる。よせば良いのに、音の方に近付くと、何と武装した男が現れて・・・

サラリーマンが出張の数日間で人生が激変するブラック・コメディ。

しがない中間管理職の中年男。足止めを喰らったことから波乱万丈な展開に巻き込まれる。

知らない相手には上から目線で文句を言ったり、愚痴をこぼしたり。それでいて、権力のある人間には平身低頭という、どこか自分勝手な主人公。

鄙びた温泉旅館の田舎料理に苦笑したり、美人二人と夢のような関係を持ったかと思うと、何と、山中で活動するゲリラに拉致されてしまう。

主人公には驚天動地の出来事が目まぐるしく起きる、まさにあり得ない展開である。

この時点で途中棄権する人もいるかもしれないが、あくまでコメディと割り切れば面白いし、興味深い。

何せ、武装して警察隊を銃撃したり、権力側もロケット砲で応戦したりする。つまり、日本国内では完全にあり得ない設定である。しかもゲリラは主人公を人質とし、妻と会社に膨大な身代金を要求する。

ここは南米かとツッコミを入れたくなる展開。

いかにも集約型の優柔不断でしがない中間管理職サラリーマン像。自分のスタンスを嫌というほど痛感させられ、それでも出世競争ではないが、あざとくもせこく立ち振る舞って危機を脱しようとする。

監督は沖島勲。反骨と気骨に満ちたピンク映画からアングラ系を手掛けた若松孝二監督に師事した人間で、本作もいかにも独立系の低予算でピンク映画の匂いをも踏襲している。

出演陣も、脇役専門の石橋蓮司が抑えた演技で微妙な悲喜こもごもを表現しているし、ゲリラ隊長役の原田芳雄、声の出演のみながら上司役の佐藤慶など、まさに60年代安保に影響を受けた世代であり、端々にコメディながら、どこか当時の自分らを投影させているような気分にもさせられた。

終身雇用だった時代に、今までの価値観と立ち振る舞いを否定される「ザ・昭和の男」。

今見るとそれ自体が被ハラスメントというコメディとさえ感じる。何せ、60年に及ぶ波乱万丈の昭和から平成への交代期。

電車内には当たり前に灰皿が付いていて喫煙できるし、駅には公衆電話があり、それでしか誰とも連絡を取れない。

国家権力壊滅を謳うゲリラは左翼運動崩れなのだろうが、そういう過激派さえ、忘却の彼方に行ってしまったと郷愁さえ感じさせる埋もれた作品。

余談雑談 2022年1月11日
今回の都々逸。 「どうにかする気と どうにかなる気 炭の向きなど変えてみる」 冬に火鉢を挟んでいる二人。深々と寒さが流れる場所に男と女。 微妙な駆け引きの世界ですな。恐らく火鉢以外に暖房機器はないのだろう。となれば後は、人肌で互いを温めるし