雨よりせつなく                平成16年(2004年)

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スタッフ

監督:当摩寿史
製作:安田匡裕、川城和実、島本雅司
脚本:飯田健三郎、森下佳子
撮影:藤澤順一
音楽:佐原史郎

キャスト

水野綾美 / 田波涼子
倉沢彰夫 / 西島秀俊
タエコ / 黒坂真美
石井女史 / 深浦加奈子
花屋の店主 / 笹野高史
町田  /  綾田俊樹
フリマの中年男
/  大河内浩
吉行  /  池田政典
加藤  /  中村靖日
反則  /  杉崎正弘

製作国: 日本 「雨よりせつなく」アソシエイツ作品
配給: シネカノン


あらすじとコメント

折角だから、たまには地上波で放映される作品にしてみた。関東地方のみかもしれないが、10月11日、深夜27:20(12日03:20)から、テレビ朝日系で放送予定。

そこいらにいる等身大の人間の日常。本作は三十路手前の女性の年齢ゆえの微妙な心情を描く小品。

東京。広告代理店に勤める綾美(田波涼子)は、仕事に追われて恋も忘れていた。

そんな彼女は同僚で結婚が決まった友人のタエコ(黒坂真美)と神宮外苑でフリーマーケットに出品した。そこで綾美は同じ会社に勤める倉沢(西島秀俊)が、何かを探して歩いているの発見した。彼の姿に、何かが、ふと彼女の心に風を送った。

しばらく後、残業していて、お腹が減った綾美は、廊下の片隅にあるカップ麺の自販機で、簡単な夕食を摂ろうとした。近くのベンチには三分以上放置してある別のカップ麺が。横目で、それを見ながらカップ麺を買うが、備え付けの割り箸がないことに気付く。

困っていると、倉沢が放置されていたカップ麺を取りに来た。そんな彼女を見て、ごく普通に箸の片方を差しだしてきた。

また、綾美の中で、何かが弾けた・・・

都会に生きる不器用な女と、何やら過去を持つ男の姿を描く作品。

結婚願望があるが、中々、人生は思い描くようにならないと悟ってしまったヒロイン。常に心はどこかを彷徨い、嫌でも孤独を噛みしめている空虚さがある。そういった女性が、男性に恋をする。

はっきり言ってしまえば、それだけの映画である。劇的な展開もなければ、際立つカットもない。等身大の人間たちの日常を淡々と追う、実に静かな作品だ。

ヒロインの出自や青春時代はまったく描かれない。ただ、彼女の現在の空虚な日常が拡がるだけ。

結婚が決まって、今後の生活に夢を抱いている友人に対しても、どこか一歩退いた付き合い方。時間があると、誰もいない都会の釣堀で糸をたれる。それを現代風のクールさだと感じて、引き抜きに掛かる女性フォトグラファー。しかし、そんな女史も孤独だ。

都会では他人を尊重して、といえば聞こえが良いが、実は誰も他人に対して、どこか排他的である。

そんな彼女が心惹かれるのが、やはり何か心の闇を抱えた上司の男。彼も、彼女同様、人生から降りて、ひっそりと生きている。

登場人物の多くが、偽善的な優しさを漂わせ、どこか排他的で、他人のことなど気にしないタイプばかり。それが都会で行き抜く最善の方法であるかのようだ。

常にくすんだ色調の画面。何度か抜けるような青空のシーンがでてくるが、それでも、暖かさではなく、寒さが強調される。

当摩監督は、そういう主人公の心の機微を静かに強調させるため、台詞での心情吐露ではなく、極力、画面によって伝えようとする。だから、余計静かなのだ。

主役の田波涼子の下手さ加減が微妙に不器用なヒロインに重なる。そして、受けて立つ西島秀俊は、彼の十八番的役どころである、掴みどころがなく、心もどこかに置いてきたような無機質な人間。

敢えて、「古いビルヂング」や、忘れ去られたような線路沿いの釣堀、山手線高架下の寂れた通路、そして古くなったが、東京の最大のモニュメントである東京タワーが間近にある風景など、どれもが疲れ果て、他人から認知されているようでされていないヒロインの心情にマッチする。

闇というほどでもないが、厭世観がある。それでも、人生には前向きと感じさせる複雑な現代人。『没個性の中での個性』とも呼べる不思議な人間像。

もし、これが本当に等身大の三十路間近の女性の実像だとしたら、急激に進歩した時代のリズムには追いつけなかった、ゆるやかな人間が多く生息する大都会の大いなる副産物と呼べよう。

見ようによっては、だから何が言いたいの、と疑問を投げかけたくなる作品でもある。

余談雑談 2009年10月7日
今回の都々逸。 「逢うた初会にすいたが因果 みんなそなたがあるゆえに」 芸者が、客を見初める。当然、日陰者としての発想であり、以後は世を忍ぶ関係だし、更には耐え忍ぶ関係ということだろう。 しかし、ここで着目したのが『初会』という言葉。「いち