スタッフ
監督:崔洋一
製作:山本洋、佐藤正大
脚本:斉藤博、崔洋一
撮影:浜田毅
音楽:石川光
キャスト
エリ / 中川安奈
サチオ / 石橋凌
ひろみ / 広田玲央名
竜ちゃん / SHY
きよし / 清水昭博
サブ / 川平慈英
ヨーコ / 余貴美子
『WHITE』のママさん / 亀渕友香
与那嶺 / 大地康雄
たか子 / 中尾ミエ
製作国: 日本 大映作品
配給: 大映
あらすじとコメント
日本復帰前の沖縄。現在、多くの観光客が訪れるが、そこには中途半端な立場の人間たちが多くいた。そういった実態のひとつを描く骨太作。
1968年アメリカ統治下の沖縄。ヴェトナム戦争最中で、連日、兵士たちは生還を夢見つつ、戦場へと飛び立っていた。
ゴザにある、とある米兵相手のクラブ。サチオ(石橋凌)をリーダーとするロック・バンド『ザ・バスターズ』は連夜、米兵相手に有名ロック曲のコピーを演奏して人気を博していた。そんな彼に、ロックのことを知りたいと米兵とのハーフで、16歳の高校生エリ(中川安奈)が近付いてきた。マリファナや女関係など、破天荒に生きていたサチオは当然のように彼女に手をだした。
一年後、二人は結婚し、男児を儲けていた。しかし、サチオは以前にも増して、ロック魂を強調し、音楽と遊びに没頭していた。エリの母親のたか子(中尾ミエ)は、彼を捨て三人でアメリカへ移住しようと持ちかけるが、断るエリ。
たか子は、そんな娘を残し単身移住してしまう。しかし、以後も、家庭を顧みないサチオと喧嘩の日々が続くが、ある日、シンガーを夢見ていたエリにサチオが告げる。
お前、歌ってみるか・・・
知られざる沖縄の人間たちの生き様を描く力作。
原作は実在の人物をモデルにした『喜屋武マリーの青春』。
また、タイトルの『Aサイン』とは、米軍が特別に許可した飲食店に与えられた称号である。
学校の現代史の授業の中でも、あまり扱われることの少ない沖縄。第二次大戦では25万人近くの人間が死んでいった場所であり、敗戦後、唯一アメリカに統治され続けた場所。1972年に日本へ返還されるまで、極東最大の米軍基地として、朝鮮、ヴェトナムと二つの戦争の中心的役割を果たし、それは現在でも続いている。
当然、米兵との間に産まれた子供も多い。主人公の少女は、そんなひとりだ。父親はイタリア系アメリカ人だが、朝鮮戦争で戦死している。母親はアメリカナイズされ、日本でもなく、アメリカでもない沖縄という場所に嫌気が差し、アメリカ本土で自由に暮らしたいと願っている。一方で、沖縄に残り、しぶとく生き延びようとあがく人間もいる。
しかし、共通しているのは日本人、否や、沖縄人として虐げられ、蔑まされながら生きていたということ。
そんな中で、戦後の申し子的な若者がロックバンドを組み、米兵相手に汚い英語を話しながら人気を博していく。しかもヴェトナム戦争真っ最中で、クラブに飲みに来る米兵たちは明日をも知れぬ身だ。同じような年恰好だが、虐げられ続けて生きていく若者と、死んでいく若者が混在している場所。
ロックバンドゆえ、個性が強くぶつかり合い、殴り合い、喧嘩別れしていく者、新しくやって来る者たちが入り混じり、時代が流れていく。
先行きに不安を感じ変わろうとする者。頑なに変わろうとしない者。それぞれには夢がある。やがて、そんなひとりひとりの『夢』はどうなっていくのか。叶うのか、それとも果てるのか。
そういった人間たちを一定の距離感を保って見つめていく崔洋一の演出が素晴しい。出演陣も皆、頑張っている。ただ、ちょっと沖縄弁に違和感がある者もいるが、それでも力演である。
中でも、最近は力み過ぎるので好きになれないクラブ経営者役の大地康雄が、よく見るといかにも沖縄人らしい顔立ちだと再確認したし、まだ若い余貴美子や、小さな子供役の伊藤淳史などが印象に残る。
本州の人間たちが、高度経済成長に邁進していた時期に、同じ国民でありながら、こっちとは別な次元であがいていた人間が生きていたという事実に胸が詰まった。
劇的な演出で盛上げない手法ゆえに、一層、その切なさが際立ち、エンディングで流れる本物の喜屋武マリーの歌声に鳥肌が立った。
教科書では教えない歴史のひとコマであり、そういった流れから、現在、観光地として人気がある場所なのだと感慨に耽った。


