先立て、通院し、『抜鉤』が終った。
これで、やっと「普通の人間」に戻った気分である。事実、何グラム程度だが、間違いなく軽い。
急な気温下降時など、右腕だけが、妙にズシリと冷えていた。ドクターはそうかな、と不思議がったが、それこそ、骨の髄に20センチはあろかという金属が入っているのだ。それに、通常の人間であれば、体に異物が入っていれば、押し出そうとする機能があるとか、ないとか。でも、確かに腕の動きがラクになった。
一方で、退院後、『抜鉤』までの間、傷口は密着性の高い透明フィルムが貼ってあっただけなので、着替えやシャワー時に、ホチキスの針のように、打ち込まれた鉤がモロに見えた。当然、その都度、妙な気分になった。
東映映画の高倉健じゃあるまいし、他人様に肩をめくり、どうだ、参ったかと威嚇できそうにもない代物。まさか、手術の勲章でもなかろうし。
で、身軽になったところで、まだ入院中の友人を見舞いに行ったら行ったで、今度は友人を筆頭に、顔見知りの看護師たちが、近寄って来て口を揃える。「飲み過ぎはいけませんよ」と。
放っといてくれよ。当然、そうは言わないが、内心はニヤニヤだ。いけない性分だとは、思いながら、やはり退院後は一日も酒を欠かさぬ。まあ、程度というか、程々を心掛けてはいる。
ただ、少し遠巻きでニヤニヤしていたのが、自分以外に、もうひとり。それは一番最初に、転んで救急搬送されたときに、処置してくれた、ほぼ夜勤専門の主治医とは別のドクター。元空手家からの転身で、生え抜きとは違って出世コースから外れているし、どうやら実力も疑問符が付くとか、付かないとか。
変わり者同士ゆえか、妙にウマが合い入院の度に、世間話をする間柄になった。そんな医師が近付いてきて一言。
「ボクは今日夜勤ですから、お待ちしてますよ」
やっぱり、放っといてくれよ。次は、別な救急病院へ行きますから。


