仲間らと温泉旅行に行ってきた。今年は異常気象で例年より雪が多いと聞き及んでいたが、乗換駅である有名な温泉駅では、雪のかけらもない。一安心と思っていると、乗換え電車が矢鱈と混んで到着してきたので驚いた。
こんなことは初めてだ。しかもどうだ、目的地の駅で乗客が一斉に降りるではないか。むろん、これも初めてのこと。
そこからバスに乗り、最終目的地まで向かうのだが、あまりの乗客の多さに、臨時便で二台同時出発だと。日に数本しかないバスでこれかよ。
それでも、家族連れからアジア系旅行客と両車すし詰め状態。どうやら、こちらは甘く見ていたがそこで催されている冬の祭りが大人気らしかった。
やっとの思いで到着し、予約してあるいつもの店に行くと、そこも混んでいるではないか。やっているマタギ夫婦もお疲れモード。
席は確保してあったので、一同やっと坐ってホッとした。その日は「熊鍋」がメイン。初参加者に女性が二名。ジビエ系が大好きとあって「鹿刺し」と「山椒魚唐揚げ」を注文。女将さんは、そんなことだろうと思って旦那に鹿と山鳥を撃ちに行って貰ったのよ、と。
翌日のランチのメインが「山鳥鍋」。ついでに鹿まで獲って来たか。いや待てよ、鹿は祭りを見越して一見客に勧めるためじゃないのかなどと思うのは性分ゆえかな。
忙しいので、中々料理は出ず、一同、空腹に酒だけで待つことになった。待つことしばし。出てきた「鹿刺し」は今までになく新鮮で、何とも美味。一挙に酒が進む。
熊鍋も安定した美味さで一同ニンマリ。他の客も帰り、やっと落ち着いた女将さんがお喋りにやって来た。
一年で、一番忙しい時期なの、と。昨日なんか昼前からお客さんが来て、夕方まで途切れず一杯でね。店は5時までなんで、いつもは朝昼兼用で3時ぐらいに食べてるのが、昨日は全く食べられないで、二人ともお腹を鳴らしながら料理を出してたの。それでも笑顔だ。
一同大満足し、定宿に迎えを頼んだ。宿は鄙びた温泉地の一番奥にポツンとある。流石に、そこいらは大雪だった。そこに、また雪が降り出した。
宿は、いつもは貸切状態なのだが、他に3組の家族連れやカップルがいた。これも冬祭りの影響だろう。宿の女将さん、2組キャンセルが出て本当は満員だったんですよ、と。
宿には内風呂と透明ビニールシートを被せた露天風呂が男女各々ある。ビニールシートは、虫よけと猿対策だそうだ。何度か野性猿を見たが、流石にこの雪では、どうしているんだろう。
それでも、ここでの雪見風呂は初めて。湯気の立ち昇る風呂から見える世界は水墨画の佇まいで、白い雪が少しの風にあちらこちらへと舞う姿が幻想的で、身も心も溶けて行く。
続いて、内風呂へとハシゴ。こちらは誰もおらず、貸切。露天風呂よりは小さいのだが、これぞ昔の内湯という風情。壁際に岩が組まれ、上部から湯が流れ出ている。湯気が充満し、硫黄の匂いが心地良い。
どうせ貸切だ。曇りガラスの窓の一部を開けると風と雪が舞い込み、湯気が撹拌される。窓の外には雪を纏った枯れ枝に雪の積もった丘の傾斜。
湯殿に腰を落ち着け、窓を見上げると、窓枠という額縁の向こうで舞う雪と湯気のコンビネーションが、体を寒さから暖かさへと変え、視線の先の見事な風景画と相まって湯殿の中で鳥肌が立った。
至福である。まさしく、至福で贅沢な時間。
で、囲炉裏での夕食と翌日のまだ知らぬ「山鳥鍋」に思いを馳せた。


